寝る時間以外はずっとピアノ漬け

 しかし、そのスタイルを活かし、高校に入学した2000年には世界最大規模のモデルコンテスト「エリートモデルルック」の日本大会に出場するとグランプリを受賞。これをきっかけにモデルの仕事を始めた。それと並行して、高校2年のときには音楽大学を目指し、本格的に先生についてレッスンを受けるようになる。

2009年、『ゲゲゲの女房』ヒロイン発表会見での24歳当時の松下奈緒。松下の身長は174cm ©文藝春秋

 もっとも、音大を受験する子はたいてい小学生ぐらいから準備しており、そのぶん松下は出遅れていた。そのハンディを乗り越えるべく寝る時間以外はずっとピアノを弾き続け、志望する東京音大の先生からもレッスンを受けるため、月1度ほど東京に通った。

 だが、入試まで数ヵ月に迫ったある日、その先生から「本当に受ける気あるの? 落ちるわよ」と言われてしまう。ショックを受け、もうやめたほうがいいかなとも考えたが、《でも、ここでやめたら何も残らない、あと数ヵ月のことだし、もう一度初心に戻ってやれるだけのことをやろうと。残りの期間で最後の追い込みをして、それがあったから受かったんだと思いますね》と、後年振り返っている(『週刊文春』2011年1月27日号)。

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『ロンバケ』の山口智子に憧れて……

 じつは高校時代にはすでに「女優をやりませんか」とスカウトされていたが、受験と二つ同時にはできないと、合格するまで待ってもらったという。俳優になることは、小学5年生のときにドラマ『ロングバケーション』でヒロインを演じる山口智子に憧れてからというもの、ひそかな夢だった。音大入学とともに事務所に入ると、いくつかオーディションを受け、先述のとおりドラマでデビューする。大学時代は、できるかぎり出演オファーに応えられるよう、毎日授業の単位の計算をしてはスケジュールを調整していたとか。

ファーストアルバム『dolce』(2006年)

「中途半端な気持ちじゃ絶対にできない世界なんだ」

 そんなふうに学業と両立させながら演技の仕事を始めたものの、こちらも生易しい世界ではなかった。彼女はそのことを2本目のドラマ『人間の証明』(2004年)で痛感する。同作で共演したのは竹野内豊のほか、緒形拳、松坂慶子とベテランばかり。《そんな先輩たちがさらに努力をして必死に演じているのを目の当たりにして、(中略)中途半端な気持ちじゃ絶対にできない世界なんだと、思い知りました。さらに、この作品の監督もすばらしい方で、たくさんの指導をしていただいたおかげで、演技の難しさ、楽しさ、深さを考えるようになりました》という(前出『Laugh & Leilani』)。