個性的な男性のパートナーの役に

 他方で、『芙蓉の人』(2014年)では気象学者である夫の野中到とともに富士山頂での越冬観測に挑んだ野中千代子、2017年放送の『時代をつくった男 阿久悠物語』と『トットちゃん!』ではそれぞれ作詞家の阿久悠、バイオリニストの黒柳守綱の妻と、『ゲゲゲの女房』のあとも史実にもとづくドラマで個性的な男性のパートナーの役を多々演じている。

2016年「水木しげるサン お別れ会」での向井理(左)と松下奈緒。『ゲゲゲの女房』で夫婦役を演じた ©文藝春秋

 松下にとって俳優の仕事は、音楽と不可分の関係にある。主演映画『チェスト!』(2008年)で初めてサウンドトラックを手がけて以来、出演作品でしばしば音楽も担当している。演じることは作曲にも反映され、《芝居をやっていて、自分の心が揺さぶられたときに、その感情を覚えておいて、帰ってからメロディーにするというのが、自然につくれる方法なんだと思いました》という(『週刊朝日』2010年9月24日号)。『ゲゲゲの女房』の撮影中も自分の役にちなんで「ふみえ」という曲をつくり、アルバム『Scene25~Best of Nao Matsushita』(2010年)に収録した。

音楽と芝居を両立しながら、20年以上仕事を続けてこられた秘訣

 一時は「音楽とお芝居、どちらかを選ばなくちゃいけないときが来るのかな」と思ったこともあったというが、続けるうち、自分にとっては両方やることが自然で、バランスが取れると気づいたと、ことあるごとに語っている。いずれも表現であることに変わりはなく、《経験したことが芝居にも音にも反映されます。そして、両方やることで自分の感情が、よりビビッドになっているように思います》という(『GALAC』2019年12月号)。

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『映画「チェスト!」オリジナル・サウンドトラック〜松下奈緒 オリジナルスコア』(2008年)

 また別のところでは、《音楽をやっているときは、のびのびとしていて素の自分に近い感じ。役を演じているときは、ドキドキする緊張感があるんです。/女優のお仕事のときは、撮影が終わったあとも、「ちゃんとやり切れたのかな」と考え込んでしまうこともあります。でも、その緊張が刺激になって、音楽に向かうときにも、いい影響を与えてくれます》と、二つの居場所があるおかげで気持ちのバランスが取れているのかもしれないとも話している(『PHP』2019年12月号)。彼女が20年以上仕事を続けてこられた秘訣も、どうやらそこにあるようだ。