“無理だと思っていた”朝ドラヒロインに抜擢
音大卒業の前年、2007年にはNHKのドラマ『グッジョブ〜Good Job』で初主演を務める。同年度後期の朝ドラ『ちりとてちん』ではピアニストとしてテーマ曲を演奏した。もちろん、俳優として朝ドラのヒロインを演じることも目標の一つではあったが、松下のなかでは10代のフレッシュな人がやるイメージがあり、すでに20代になっていた自分には無理だとも思っていたという。それが先述のとおり朝ドラのリニューアルとも重なり、24歳にして『ゲゲゲの女房』のヒロインに抜擢される。
朝ドラで10ヵ月のあいだ一つの役に取り組んだ経験は松下にとって大きかった。演じるうち《ひとつひとつの布美枝の行動や決断が、自分のものとして感じられるようになっていったんですね。だから、布美枝の思い出や経験は、自分の思い出や経験にもなっているんです》とクランクアップ後に顧みるほど役にのめり込んだ(『ステラ』2010年9月24日号)。
「朝ドラのおかげで貪欲になれた」
こうして布美枝の役は、松下自身にも、また視聴者の側にも大きなものを残すことになる。それだけに《その役を手放したとき、次はどうすればいいのか、どういう役に巡り合えれば再び夢中になれるのか、とても怖かったですね》と明かしている(『日経エンタテインメント!』2011年5月号)。ただ、彼女は続けてこうも語っていた。
《好きだった役を離れるのがイヤだった一方で、「休みたくない」とも強く思いました。一息つくと、朝ドラで得た感覚を忘れてしまいそうな気がしたんです。朝ドラのおかげで自分は時間に追われて走っているほうが合っていると分かったし、それまでよりも貪欲になれたと思うんですよね》(同上)
そんな松下をドラマ関係者は放っておかなかった。『ゲゲゲの女房』の翌年、2011年には民放ドラマ初主演となった『CONTROL~犯罪心理捜査~』で、融通のきかない頑固な熱血刑事という布美枝とはまったく違う役に挑む。その後も、『闇の伴走者』(2015年)では一見クールながらドジなところもある元警察官の調査員を演じるなど、役の幅を広げていった。昨年放送の『スカイキャッスル』でも、子供を医大に入れるため執念を燃やす母親を好演し、新境地を感じさせた。