音楽とかかわりのある役を演じるほうが難しい

 劇中でも、音楽とかかわりのある役を演じることが少なくない。デビュー作『仔犬のワルツ』からして、当時の自身と同じ音大生の役で、《ホントにラッキーだと思います。自分の環境に近いので、心強い》と語っていた(『anan』2004年4月14日号)。だが、キャリアを重ねるうちに、むしろ自分に近い役ほど演じるのは難しいと実感するようになる。

映画『風の奏の君へ』(2024年)

 昨年公開の映画『風の奏の君へ』で主人公・青江里香を演じたときには、《ピアニストで作曲家である役柄としての里香と、自分自身とをどう変えていけばいいのかなと。里香の気持ちが分かる部分も大きいけれど、自分じゃないし。どこまで私でやるのか、里香でやるのか。境界線て何なんだろうな、という事が、すごく難しいと思いました》と明かした(「ピティナ調査・研究」2024年5月23日配信)。

 劇中でピアノを弾く場面でも、吹き替えなしで演奏する自信はあったものの、《自分がいつも松下奈緒として弾いている音とは違う音が出せるといいなと思いながら演奏しました》と、里香と自分の違いや、彼女がどういう思いで演奏したのかを意識しながらのぞんだという(「telling,」2024年6月6日配信)。このことからも、彼女が役としっかりと向き合い、丁寧に演じていることがうかがえる。

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映画『風の奏の君へ』(2024年)公式Xより

年齢とともに変わってきたこと

 かつて音大受験に必死の追い込みで受かった松下は、芸能界に入ってからも常に目標を立てては達成してきた。20代初めには《一年の初めに小さな目標も作りますよ。“苦手なものを食べられるようになる”という、小さな目標を立てて、本当にレバーを克服しました(笑)》とも語っていた(『anan』2007年10月3日号)。

 そんなふうに何事にも全力で取り組んできた彼女も、40歳を迎えるにあたり少しずつ変わりつつあるらしい。昨年のインタビューでは、「年齢とともに、プライベートの過ごし方にも変化はありましたか?」との問いに、《自分の時間を大事にできるようになりました。20代の頃は自分の時間を削ってでも仕事に没頭することもあり、それが楽しかったし幸せを感じていました。でも年齢を重ねて余裕が出てくると、自分に戻ってインプットする時間も必要だなと感じます》と答えている(「telling,」2024年6月7日配信)。

最新アルバム『SouNds!』(2024年)

 数年前、コロナ禍による自粛期間もあって裁縫を始めたところ、ライブ衣装をつくるまでになったという。そんな彼女だけに、プライベートでインプットしたことも、きっと演技や音楽に反映されていくに違いない。

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