次世代へと受け継がれるカーネギーの哲学
全土に敷設される鉄道網や通信網、主要都市で雨後の筍のごとく建設された高層ビル、着々と開発され、実用化されていった戦艦、戦車、戦闘機。その全てにUSスチールの鉄鋼が使われ、最盛期には米国市場で65%を超えるシェアを握った。ウォール街はその圧倒的な存在に畏怖の念を込め、「ザ・コーポレーション」と呼んだ。
一方、会社を売って約2億3000万ドルもの大金を手にし、「石油王」ジョン・ロックフェラーを抜いて「最も裕福なアメリカ人」になったカーネギーは、その資産の90%を慈善事業に充てて社会に還元する。カーネギーの名前は彼が作った会社ではなく、全米に残るカーネギー図書館、ニューヨーク・カーネギー財団、カーネギー・メロン大学、カーネギー科学研究所、カーネギー・ホールなどに刻まれた。
現役経営者の時代は資本主義の原則に従い、ありとあらゆる手段を使ってライバルを駆逐し、富を独り占めする。「winner takes all(勝者の独り占め)」だ。しかし現役を退いた後は、民主主義の原則に従い、富を社会に還元する。税金を納めて役人に任せるのではなく、あくまで私有財産として使い道は自分で考える。
カーネギーは米国社会が理想とする資本主義と民主主義の体現者であり、その思想は「資産の半分以上を慈善活動に寄付する」と宣言する「giving pledge(ギビング・プレッジ)」として現代の米国起業家たちに受け継がれている。ビル・ゲイツ氏、ウォーレン・バフェット氏、イーロン・マスク氏、サム・アルトマン氏などあらゆる富豪がこの系譜に連なっている。
※本記事の全文(約6500字)は「文藝春秋」2025年3月号と、月刊文藝春秋のウェブメディア「文藝春秋PLUS」に掲載されています(大西康之「日本製鉄に立ちはだかる鉄鋼王カーネギーの栄光」)。全文では、下記の内容を図表入りでお読みいただけます。
・7時間のトランプ・孫会談
・「倒産の帝王」ウィルバー・ロス
・ISG、インドの大富豪の傘下に
・三度目のびっくり

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