各分野でAIと共存できるかどうかの分かれ道とは?

今井 例えば最近では、将棋の世界ではAIが登場しても共存が成り立っているけれど、同様のことがイラストとAIで成立するか? をAIと議論しました。

 将棋の世界では、一般的に趣味で将棋する人が大勢いて、普通に対局する分には、相手が合意すればAIを使ってもいいですし、自分を強化するトレーニングに使ってもいい。でも、プロの藤井聡太とか、羽生善治とかが戦う場では、絶対に使えません。つまり、日本将棋連盟の公式記録に残る棋戦で使えば、もうそのコミュニティから追放されてしまう。

 ところが絵師の世界では、業界全体に影響力のある管理されたコミュニティがありません。SNSや各イラスト投稿サイトでAI絵師と言われる人たちが「いいね!」を稼いでいると、元々絵を頑張って描いてきた人たちが割を食うわけです。棋界のように、そこで価値が認められなければ仕事にならないコミュニティがあれば排除できるのですが、そういう場も強制力もない。

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 結局のところ、各分野でAIと共存できるかどうかは、そこに調整力のあるコミュニティがあるかどうかだ、という結論に行き着きました。

牛尾 研究者目線では、プログラマーとAIの共存の見通しはどうですか?

牛尾剛氏

今井 若干怪しいんですけど(笑)、身も蓋もないことを言うと、例えば、牛尾さんみたいな人は、たとえAIエージェントみたいなのが発達して全工程をほぼやれるようになったとしても、多分生き残れるんです。

牛尾 そうなんですか!?

今井 本当に最終的に価値を持つ人間とは何か、突き詰めて議論をした場合、別に人間がAIという機械の能力を越えられていなくても、いいんです。それこそウサイン・ボルトより速い乗り物はいくらでもあるし、藤井聡太にだって最近の将棋AIプログラムは99%勝てるんです。でも彼らは仕事はなくならない。

 つまり、AIに勝てなくていいので、そのジャンルの人間の世界でトップクラスであることが大事なんです。純粋な生産性や勝敗とは別に、トップクラスの人間はブランドとして、陸上競技や将棋そのものの価値を高め、お金を生むことができます。

 だから牛尾さんみたいな人は日本のエンジニアのスターとして、最悪プログラミングの仕事がなくなったとしても、こういうイベントでも、職場でのアドバイスでも、仕事が作り出されるんですよ。

牛尾 僕は三流だけど、人間でないと生めない価値があるのはすごくわかります。