(3)「うつ病患者を励ますな!」は絶対ではない
「うつ病の人を励ましてはいけない」という注意を耳にしたことのある人は多いだろう。うつになる人は頑張り屋なので、ただでさえ精神的にマイっている時に周囲から「頑張れ」と言われると、その声に応えようとしてさらに頑張ろうとして症状を悪化させる――というのがその理由だ。
これに対して、加藤医師は次のように解説する。
「うつ症状を持つすべての人が、周囲からの支援をストレスとして感じるわけではありません。配偶者や子供のように関係性の近い人からの心のこもった応援は、力になることもある。当人のことを本当に心配してかける言葉は、その時々の対応として決して間違ったものではないはずです」
相手の気持ちを汲み取ることが苦手な人、というのがいる。周囲の人が純粋に応援するつもりで発する「頑張って」という言葉を、“声援”ではなく“命令”として受け取ってしまうような、言葉の解釈の仕方にズレがある人はいるものだ。そういう人がうつになった時、あるいはうつになったことで相手の気持ちを汲み取ることが難しくなっている人に対して、励ましの言葉は確かに逆効果だろう。
しかし、夫婦や家族ならその人がどんな性格かはよく知っているはずだし、いま励ますべきか、あるいはそっとしておくべきかの判断もつくだろう。
泣き言さえ口にできない時も
「うつ病になる人は、不調になるのは自分のせいで、周囲に迷惑をかけてはいけない、と考えやすい。元々性格的に他者への配慮が強く、罪悪感を持ちやすい傾向にあるのです」
そう語る加藤医師によれば、うつの人が本当にしんどい時は、泣き言すら口にできない状態に陥るという。その状態で励まされると、罪悪感を強めることになるので逆効果だ。
「家族や周囲に“弱音”を吐けるようになってきた段階で、『自分のできる範囲で頑張っていけばいいんじゃないか』とサポートするといい。信頼する家族から、家族なりの言葉で励まされたり、褒められたりすれば、当人にとっては自己評価が高まり、うつから抜け出す力を持つきっかけになる可能性はあるはずです」
大切なのは、その人の性格と状況にあった柔軟な対応であり、「こうすべき」とか「こうしてはいけない」と決め付けるのは危険なのだ。
家族が共倒れにならないために
心の悩みを抱える人と暮らす人は、時にうつである当人と同等かそれ以上の苦悩に支配されることもある。ある意味「老々介護」に似た状態ともいえるだろう。
「うつの人が100人いたら、その病態は100通り――。つまり、すべての人に当てはまる答えはない」と加藤医師は言う。その人に合った、その人だけの対応が求められる。
それは家族にとって決して簡単なことではない。揃って疲弊して共倒れにならないためにも、家族の“心”に異変を感じたら、この「3カ条」を忘れずに、何らかの形で医療の手を借りられる準備を整えておくべきだろう。
◆家族が「うつ」になった時に知っておきたい3カ条
(1)“素人診断”はするべからず
(2)うつの本人ではなく、家族が受診してもいい
(3)「うつ病患者を励ますな!」は絶対ではない