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『星ドラ』CMでジャッキー・チェンが話すニセ中国語「シェイシェイ」の正体

なんと「シェイシェイ」はリアルな中国人には通じない!?

2018/06/11

仕掛け元は知っててやっていた

「『謝謝』の発音は、(標準的な)読みは『xiè xie(シエシエ)』だとは思いますが、これだと日本人の多くの方が読めない、もしくは親しみがなくピンとこないと思いました。音として日本人に馴染みのある『シェイシェイ』のほうが、一般の方がグラフィック広告を見た際に読みやすいですし、親しみを持っていただくため、あえてそういたしました」

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 さて、話はジャッキー・チェンの星ドラCMに戻る。昭和の時代と違い、現在の日本国内にはネイティヴの中国人が100万人くらい暮らしている。スクエニ社内や「ギガ謝謝」を仕掛けた広告会社の社内にも中国人社員は何人もいるはずである。

 なのになぜ、星ドラCMでは現代中国語音の表記としては誤りと言っていい「シェイシェイ」が使われたのか。CMを手がける電通PR社に問い合わせたところ、上のような回答が来た。どうやら、彼らは発音が正確ではないことは把握したうえで「知っててやっていた」みたいである。

 これをどう考えるかは立場が分かれるところだろう。日本人に親しみがある発音とはいえ、現地で通じないニセ中国語でルビを打つのはけしからんと考える方もいるかもしれない。語学を知る人が見れば違和感を覚える表記なのも確かだからだ。

 私自身、行政や小中学校がネット上にアップしている国際交流イベントのPDFなんかで「中国のお友達に『謝謝(シェイシェイ)』とご挨拶」みたいな記述を発見し、頭が痛い思いをすることは多い。現代中国語の表記として「シェイシェイ」は誤用だ。インバウンド市場や国際交流教育のような、リアルの中国人と向き合う現場からはすみやかに排除される必要がある。

おっさんの脳内中国は「シェイシェイ」を使う中国である

 ……ただし、私は星ドラCMの件に限っては、「シェイシェイ」表記を容認したい立場である。なぜなら、ここで登場する“中国的なるもの”は、はっきり言ってリアルの中国とは無関係で、またCMの訴求対象が中国人ではないことも明らかだからだ。

 初期のドラクエをプレイしていたような30〜40代くらいの日本人男性(筆者も含む)のなかには、「心の中国」とでも呼ぶべきイメージの世界が存在する。それは、小中学生だった1980年代から90年代にかけて親しんでいたポップカルチャーの世界に登場した、なんか中華っぽい感じだけれどよくわからないフィクションの世界だ。

 説明しよう。この「心の中国」では、春麗(チュンリー)がスピニングバードキックを打ってレイレイが暗器を投げている。ジャッキー・チェンは酔っ払いながら謎の拳法を使い、テンテンやスイカ頭がキョンシーを封じ込める。もちろん、秘孔を突けば指先ひとつで人体は爆発するし、ゴルフの起源は古代の恐るべき武闘家・呉竜府に求められる。

 加えて、謎の発明家一家は宇宙船「烈津號(れっつごう)」で家の隣に飛んでくる。アメリカに移住した華僑のじいさんはギズモを飼っている。ラーメンマンはブロッケンJr.と死闘を演じ、中国帰りの拳法家が水をかぶると女になったりパンダになったりする事態も、日常的にまま起きる――。

 この「心の中国」の住民たちのあいさつは、絶対に「シェイシェイ」に違いない。発音するときはあえて声調を無視し、はっきりと「イ」音を強調して読まなくてはならない。スカして「xiè xie(シエシエ)」などと言ったら、まるで本物の中華人民共和国や中華民国みたいな感じがして、実に野暮な気がしてしまうではないか。

FCドラクエ世代である筆者も一昨年夏頃まで星ドラをプレイしていた。なお、ドラクエ3の勇者コスプレをやらせた男性キャラクター(1枚目左)の名前は「チャッピー」だ。残りの2人の名前は「もりそば」と「うおのめ」にすればよかったと思っている。

 星ドラはゲーム内衣装や特別イベントのボスに、ドラクエの初期シリーズや『ダイの大冒険』など往年のドラクエ漫画をモチーフにした装備やキャラクターが頻出する。BGMの多くもドラクエの過去作品のものが使われている。

 もちろんゲームとしては全年齢的に遊べるのだが、筆者をはじめとしてファミコン時代のドラクエにハマったアラフォーのおじさんをコアユーザーに設定しているのは明らかだ。CMに(香港ではすでに人気が下火の)ジャッキーがあえて起用されているのも、この世代にとってのジャッキーが幼少期のスーパーヒーローであるからに他ならない。

 私たちが星ドラのCMで見ているのは、中華人民共和国香港特別行政区に暮らす中国政協委員の成龍(セン・ロン、チェン・ロン)氏ではなく、「心の中国」の住民である伝説の武闘家・ジャッキーである。ゆえに、彼はニセ中国語を喋って構わないのであり、むしろ喋らなくてはならない。

「ギガ謝謝」は、だからOKだ――。私はそんなふうに思ったりもするのである。

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