第三に、売り惜しみするのは、金利・保管料などのコストをかけても持っていれば将来高く売れるという見込みがあるときである。現在は史上最高水準の高米価である。今年産の収穫は終わっている。これからコメの供給量が減少する要因はない。農水省も予想しているように、今年産の作付けは増えるので、今年の10月から米価は下がる。早めれば、コメの作付けが始まる4~5月ころから、市場は供給増加を予想し、米価は低下し始めるだろう。在庫を抱えていれば高く買ったものを安く売ることになる。損をするだけだ。

第四に、21万トンとは大手コメ卸売業者の年間販売量に匹敵する数字だ。21万トンのコメを、東京ドームの敷地に30キログラム袋で敷き詰めれば6メートルの高さにもなる。39万トンなら11メートルだ。各地に分散しても、21万トンも在庫を抱えているなら、すぐに見つかりそうだとは思わないだろうか?

トレーサビリティ法でコメは消せない

第五に、2008年汚染米事件が発生した際、農水省はコメのトレーサビリティ法を作った。

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コメの流通を統制・管理していた食糧管理法の下では、コメ流通は、生産者⇒農協(一部は商人系の集荷業者)⇒卸売業者⇒小売業者⇒消費者というルートが固定されていた(集荷・流通業者は政府に許可・登録された者に限られる)。1995年に同法が廃止され流通ルートが複雑化したために、コメの不正流通をチェックできなくなり、汚染米事件が引き起こされたとして制定したのが、トレーサビリティ法である。

同法では、生産者から農協等の集荷業者、卸売業者、スーパー、小売店、外食店まで全ての事業者に対し、取引を記帳し保存することが義務付けられている。搬出入した場所も記載義務事項である。流通ルートが複雑化しても、農水省は同法によって各段階の取引やコメの在りかを把握できているはずである。農水省の視界からコメが消えるはずがないのだ。

(参考)米トレーサビリティ法の概要(「米穀等の取引等に係る情報の記録及び産地情報の伝達に関する法律」)