つまり、農水省はしぶしぶ備蓄米放出に応じることとしたが、米価を下げるという備蓄米放出効果がないような条件を付けたのだ。

農水省が卸売業者を悪者にするワケ

昨年の夏、スーパーの店頭からコメがなくなったときも、農水省は「コメは十分にある」と主張した。それ以降も、米価が史上最高値にまで高騰した現在でもこの姿勢を貫いている。今回の備蓄米放出も、コメが足りないから出すのではなく、卸売業者などの流通業者が投機目的でどこかに貯めこんで市場にコメが流通しないため、それを吐き出させるために行うのだ(抱え込んでいるコメを放出させる呼び水とする)と主張している。流通を円滑化することが目的だと言う。

昨年夏も、卸売業者の在庫が異常な水準にまで低下していたにもかかわらず、スーパーからコメが消えたのは卸売業者が在庫を抱えて売り渋っているせいだという根拠のない主張を行った。一貫して集荷業者の農協は善玉、卸売業者は悪玉という主張だ。

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24年産米の生産は18万トン増加してコメは十分あるのに、農協の集荷量は21万トン減少した。21万トンは、投機目的で参入した業者などを含め流通業者が隠していると主張している。コメはあるのだが消えている。それは卸売業者などが投機目的で抱え込んでいるからだというのだ。

コメが足りないことを認めれば、上のような条件を付けないで備蓄米を放出せざるをえない。そうなると米価は下がる。農政トライアングルの仲間のJA農協、自民党農林族議員の反発を受けることを恐れているのだ。

農水省が正しいならコメ価格は暴落する

しかし、そもそも、この算数はおかしくないだろうか?

18万トン増加しているのに21万トン減っているのであれば、隠している量は39万トンになるはずだ。

また、もし農水省の主張が正しいのであれば、備蓄米の放出で米価が下がると予想すると、コメを投機目的で抱えている業者は慌てて売りに出すはずである。農水省自身、今回の放出の目的を流通の円滑化、つまり投機目的の買い占め抑制だとしている。そうすると、市場での供給は42万トン(21万トン+21万トン)増加する。今の60キログラムあたり2万5千円が1万2千円にまで米価は暴落するおそれがある。