「えっ? 本当か?」
青春を謳歌する若者たちの姿と62年の生涯を自殺という手段で幕を下ろした昭和の大スター。そのあまりにもかけ離れた現実に、目の前が一瞬クラクラしたのを覚えている。
気を取り直し、甲子園球場のスタンドから本社のデスク席に電話をすると、たしかに藤の訃報が入っているという。甲子園のざわめきを背に、私は急いで球場を去り、大阪・中之島にある朝日新聞大阪本社に向かった。もうすでに夕刊は刷り上がっており、藤の訃報が本人の顔写真入りで社会面に掲載されていた。
歌手・藤圭子さん死去 自殺の可能性
歌手の藤圭子さん(62)が22日午前7時ごろ、東京都新宿区西新宿6丁目の路上で倒れているのが見つかった。病院に運ばれたが、まもなく死亡が確認された。警視庁は、現場の状況から、現場前のマンションから飛び降り自殺したとみている。藤さんは、歌手の宇多田ヒカルさんの母親。
新宿署によると、藤は仰向けで倒れ、履いていたとみられるスリッパの片方が近くに落ちていた。知人が住むマンション13階の部屋のベランダに、もう片方が落ちていたという。着衣に乱れはなかった。遺書は見つかっていない。
藤さんは、3月に病死し今月23日に都内で偲ぶ会が予定されている作詞家の石坂まさをに見いだされた。1969年に「新宿の女」でデビューし、翌70年には「女のブルース」「圭子の夢は夜ひらく」が大ヒット。この年に日本歌謡大賞、日本レコード大賞大衆賞を受賞、NHK紅白歌合戦にも出場した。
テレビ局はどこも高層ビルが立ち並ぶ西新宿の現場から生中継した。ファンも現場を訪れて手を合わせている。
「藤圭子のこととなると、ちょっと客観的にって訳にはいかないかもしれない。私、惚れてんだ。惚れるとベッタリの性なんだ」──かつて作家でタレントの中山千夏はそう告白した。若い人には「宇多田ヒカルの母親」というイメージの藤だが、やはり中高年にとっては一世を風靡した大スターの印象が強い。
彼女が抱えていた「心の闇」
飛び降りる直前にベランダに立ったとき、彼女の目に見えたものは何だったのか。ちょうど朝日が差し込む時間だったから、キラキラ光る太陽の光を浴びたかもしれない。
その瞬間、自殺を思いとどまることはなかったのか。そもそもなぜ死を選んだのかという理由を私は知りたかった。遺書はないので詳しいことは分からないし、勝手な判断もできないが、彼女が心の闇を抱えていたのは確かだろう。
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【厚生労働省のサイトで紹介している主な悩み相談窓口】
▼いのちの電話 0570-783-556(午前10時~午後10時)、0120-783-556(午後4時~同9時、毎月10日は午前8時~翌日午前8時)
▼こころの健康相談統一ダイヤル 0570-064-556(対応の曜日・時間は都道府県により異なる)
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