「ブラックペアン」(TBS)の二宮和也、「ドクターX」(テレビ朝日)の米倉涼子、「医龍」(フジテレビ)の坂口憲二──近年の医療ドラマで活躍する天才外科医たちには、若くてかっこいい人たちが配役されています。なかでも、「手術成功率100%を誇る孤高の天才外科医」(TBSブラックペアンの紹介サイトより)、渡海征司郎(心臓外科医)を演じる二宮さんは、現在34歳という若さです。

たった5年足らずで「天才外科医」になった設定だが……

 もし医学部に現役で合格したとすると、6年ストレートで卒業したとして24歳、それから2年の初期臨床研修と3年程度の後期研修(専門研修)を終えて29歳ですから、研修を終えてたった5年足らずで、「天才外科医」の称号を得たことになります。

TBS 番組公式サイトより

 ですが、外科では手術はたくさんの数を経験しなければ上達しないと言われています。こんなに短い期間にあらゆる技術を身につけ、100%の成功率でこなせるようになるのでしょうか。実は最近、こんな興味深い研究論文が報告されました。「若い外科医が手術した患者のほうが、死亡率が高かった」というのです。

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 この論文の筆頭著者は、カリフォルニア大学ロサンゼルス校助教授(医療政策、医療経済学)の津川友介医師。ベストセラー『世界一シンプルで科学的に証明された究極の食事』(東洋経済新報社)の著者で、「男性より女性の内科医のほうが患者の死亡率が低い」など、統計データの解析に基づく話題の論文を次々に発表している、今大注目の研究者です。

 論文は2011~14年に米国の病院に緊急入院して手術を受けた65~99歳の患者のデータを解析したもので、約4万5000人の外科医によって行われた、約89万件の手術が対象となりました。

若い外科医が手術した患者の死亡率が高かった!

 患者の重症度などに応じリスク補正を行って解析したところ、40歳以下の外科医が手術した患者の術後死亡率が6・6%なのに対し、40歳代が6・5%、50歳代が6・4%、60歳以上が6・3%と、若い外科医が手術した患者の死亡率が高いという結果だったそうです。

 とくに、「30歳代の男性外科医(6・6%)が死亡率が高い」との結果が得られたそうですから、手術成功率100%という二宮さんの役どころは、データ的には「現実離れしている」と言えるかもしれません。

 論文を解説したブログの記事で津川医師は、この結果について次のようにまとめています。

「現在のように周りがきちんと目を光らせて加齢とともに目が見にくくなったり手元が狂うようになったらどこかのタイミングでメスを置くように勧告する。この仕組みがきちんと機能している限りは、外科医は年を重ねるほど腕がよくなると考えてよいようです。その一方で、若い外科医の患者の死亡率は高い傾向があるので、ある程度経験するまではきちんと上級医が監督する必要がありそうです」