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医師仲間も太鼓判 70歳を超える高齢スーパー外科医も

 米国でのデータに基づく結果ですので、それがそのまま日本の医療現場にあてはまるかどうかは議論の余地があるかもしれません。ただ、名だたる外科医を何人も取材させてもらった私の印象と照らしても、理解のできる結果だと感じました。というのも、私は20年ほど前から医療現場の取材をしていますが、その頃から名医として知られ、現在も現役バリバリという高齢の外科医を何人か知っているからです。

 私は昨年8月に「週刊文春」で2週にわたって「ライバルが認める『がん手術の達人』」という記事を担当しました(8月17日・24日合併号および同月31日号)。各種のがんを専門とする多くの外科医にアンケートを送って腕も人間性も信頼できる外科医の名前を挙げてもらい、その中で複数の推薦のあった外科医を126人リストアップした記事です。

 そのリストには、70歳を超える外科医の名前も数名あがりました。一般の仕事なら現役を引退してもおかしくない年齢です。正直、そのような年齢の人たちを、こうしたリストに載せていいのか大いに悩みました。そこで、同じ分野の他の外科医数人に、意見を聞いてみたのです。するとある外科医から、こんな答えが返ってきました。

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「〇〇先生は、今でも現役バリバリですよ。見事な手術をされて、とても勉強になるので、今でも私の部下の外科医を連れて年に1回は手術見学をさせてもらっています」

 外科医の仕事というのは、知力や体力だけでなく、長年数をこなすことで培われた技術や経験が大いにモノを言います。高齢だからというだけで、「手術は無理に違いない」と決めつけることはできないのです。

糖尿病で視力の衰えた医師が執刀して大惨事に

 実は今から50年近く前、東京の某名門産院で70歳を超える院長が執刀した卵巣や子宮、帝王切開などの手術で患者が死亡したり、後遺症を負ったりする例が相次ぎ、問題となったことがありました。高齢であるだけでなく、糖尿病で視力が酷く衰えていたことと無関係ではなかったと言われています。また、名門産院の院長ともなると、周りが問題だと感じても、止めることができなかったのでしょう。

 このような事例を知ると、高齢の外科医に手術されるのは、やはり「怖い」と感じるかもしれません。ただ、その頃に比べると日本人の寿命が延びて、70歳でも元気な人が増えました。それに現在では、肉体的な衰えをカバーする手術道具がかなり進歩しました。

 たとえば、細かい操作が必要な手術では、眼に「拡大鏡」をつけて手術するのが一般的です。モニターを見ながら操作する腹腔鏡や胸腔鏡の手術では、カメラが進歩して高精細の拡大画像を映すことができるようになりました。そのおかげで、老眼が進んだ外科医でも、かなり楽に見えるようになったと言われています。

技術の進歩で「外科医の寿命」は延びた

 また、電気メスや縫合器などが進歩して、以前より楽でかつ出血も少なく手術できるようになりました。ロボット手術では3Dで拡大視できるだけでなく、手振れ防止機能などもついています。このような進歩によって、「外科医の寿命」は延びたと言われています。

TBSテレビより

 こうした現実を踏まえると、今後、天才外科医を主人公にするならば不自然に若い俳優さんを配役するよりも、笹野高史さんのような一見頼りなさそうなベテラン外科医が、イザ手術になると眼光鋭く豹変し、難手術を楽々こなしてトラブルを次々解決──そんな設定のドラマにすると面白いかもしれません。視聴率は保証しませんが。

 もちろん、どんなに器具が進歩したとしても、人間いつまでも手術を続けられるものではありません。津川医師が指摘する通り、肉体や精神の衰えに応じて、どこかでメスを置くよう勧告するシステムをつくる必要もあるでしょう。近年、超高齢ドライバーによる悲惨な交通事故が問題となっていますが、医療現場でも同じような問題が起こらないようにしてほしいものです。