吉原の伝説の遊女、五代目瀬川とはどんな人物だったのか。歴史評論家の香原斗志さんは「吉原の中でもトップクラスの花魁だった彼女は、盲人の鳥山検校に1400両で身請けされる。しかし、2人の生活は3年ほどしか続かなかった」という――。
五代目瀬川を演じる小芝風花さんの艶やかさ
蔦重こと蔦屋重三郎(横浜流星)がみずから板元(出版元)となり、はじめて刊行した吉原のガイドブック『吉原細見 籬(まがき)の花』。これが売れに売れた。NHK大河ドラマ「べらぼう~蔦重栄華乃夢噺~」の第8回「逆襲の『金々先生』」(2月23日放送)。
売れた理由は一つには、丁数(ページ数)を減らして制作費を抑えつつ、内容に工夫を凝らしたからだった。これは史実である。「べらぼう」では、加えてもう一つ強調された。蔦重と幼なじみの花魁で、小芝風花の妖艶な演技が評判の花の井の決断である。名跡襲名の際には『吉原細見』がよく売れるからと、蔦重を助けるために彼女が所属する女郎屋、松葉屋に伝わる名跡「瀬川」の五代目を襲名したのだ。
こうした花の井の献身があればこそ、『吉原細見 籬の花』はなおさら売れた、という描き方だった。そして、『籬の花』人気と瀬川人気が相まって、吉原は人が押し寄せての大盛況となった。『籬の花』が瀬川のおかげで売れた、というのは「べらぼう」の創作だが、この時期に五代目瀬川が吉原を代表する花魁だったのは史実である。
だが、史実云々と細かいことをいうもの野暮だろう。「べらぼう」では花の井改め瀬川とその周囲をとおして、往時の吉原の状況がよく描かれているからである。
吉原から合法的に抜け出す唯一の方法
第8回では蔦重は瀬川に、名のある武家や商家に身請けされて幸せになってほしい、という思いを伝え、世間に出てから役立つ知識が学べる『女重宝(ちょうほう)記』という本を手渡した。
ここで「身請け」という言葉が登場した。実際、瀬川は第9回「玉菊燈籠恋の地獄」(3月2日放送)で、鳥山検校(市原隼人)という人物に身請けされることを決心する。結果として、瀬川がどうなるかは後述することにし、まず「身請け」について説明しておこう。