吉原の女郎には原則、働きだしてから10年の年季奉公が義務づけられていた。女郎屋への借金がかさんでいると10年で済まなかったが、ともかく無事に年季が明ければ、ふつうに結婚生活を送ることも珍しくはなかった。

ほとんどの女郎は親の借金の担保として女郎屋に売られており、彼女たちが進んで娼婦になったわけではないと世間もわかっていたので、差別されることはなく、社会も受け入れたのである。

しかし、とにかく最低10年は働かなければならず、年季が明ける前に吉原から抜け出す唯一の合法的な道として「身請け」があった。これは、女郎屋が持つ女郎の年季証文を客が買い取って、つまり身代金を払って、女郎の身柄を引き取ることを指した。

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身請けにかかる金は女郎屋の言い値だった。女郎にとっても、好きな相手に身請けされるとはかぎらなかったが、借金を抱えている女郎も多く、高額での身請けはありがたかったようだ。

逃亡に失敗した女郎が受けた折檻

とはいえ、高額の身請け金など、だれにでも払えたわけではない。第9回では、平賀源内(安田顕)と行動をともにする浪人の小田新之助(井之脇海)が、松葉屋の女郎うつせみ(小野花梨)を身請けするのに300両(3000万円程度)かかると聞かされ、「足抜」という行動に走るようだ。

「足抜」とは女郎の逃亡のことで、「欠け落ち」とも呼ばれたが、成功する例はきわめて稀だった。吉原は周囲を「お歯黒どぶ」と呼ばれる水堀と、忍び返しがついた高い黒板塀で囲まれ、出入り口は大門1カ所しかなかった。その大門脇の会所では、女郎の出入りに常時目を光らせていた。

女郎が1人で逃げられるものではなく、たいてい男が手引きし、お歯黒どぶを乗り越えるか、男装して大門から逃げるかしたようだが、ほとんど見つけられてしまった。第9回では小田新之助とうつせみも捕まって、新之助は暴行を、うつせみも激しい折檻を受けるようだが、それが吉原のルールだった。