「魚や微生物に身体を食べられてしまった」水死して白骨化したご遺体を火葬することも…

――他の事故の場合も難しい点はありますか?

下駄 水死や焼死も難しいです。例えば水死の場合、長時間水中にあった状態で肉がふやけてしまうと、骨にも水が染み込んでしまいます。そうなってしまうと、火を当てても骨がなかなか焼けないんですよ。特に魚や微生物に身体を食べられてしまって、ほとんど白骨化した状態のご遺体は、火葬終了までにかなりの時間がかかります。

――すでに骨になったご遺体も、火葬するのですね。

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下駄 はい。「骨だけになったら、そもそも火葬する必要があるの?」とよく質問されますが、火災で焼けて骨になった場合でも火葬するんですよね。お箸でサクっと割れる状態にする、いわゆる「焼骨」にすることが目的なんです。

 普段であれば、お肉がついている人間の形のまま火葬します。人の身体はうまくできていて、その状態で火葬すると骨だけになった時点がちょうど良い焼き加減になるんです。ただ白骨化したご遺体は元々が骨なので、どの時点で火葬が完了したのか判断が難しくなるんですよ。

 

「動物に身体を食べられ、残っていたのが頭部だけだった」顔だけのご遺体を火葬する難しさ

――下駄さんの中で特に火葬が難しかったご遺体はありますか?

下駄 顔だけのご遺体は難しかったですね。

――顔だけ……?

下駄 森でお亡くなりになった方で、ご遺体が発見されるまでに身体のほとんどを動物に食べられてしまったようで。見つかったときに残っていたのが、頭部だけだったんです。顔だけの状態で、どうやってきれいな焼骨にすればいいのか、初めての経験で悩みました。

――顔だけもそうですが、バラバラであればあるほど焼骨の難易度が上がるということですね。

下駄 いつもと違うから、やはり難しくなりますね。最終的には、ずっと火をつけていればどんな状態のご遺体でもいつかは焼骨になります。でも、火葬場職員としては少しでも早い時間で火葬したいんですよね。

 

――なぜ早く火葬したいのでしょう?

下駄 例えば、ゆっくり焼くのと早く焼くので15分の差ができたとします。骨は火を当て続けると少しずつ脆くなっていくんです。早く焼き上がった方が、お骨上げの際に綺麗な状態で骨が残るんですよ。

 また、火葬時間を短くすることで冷却時間を確保できます。例えば火葬からお骨上げまで2時間の場合、1時間の火葬なら1時間の冷却時間がとれますが、1時間半かかってしまうと、30分しか取れません。

 そうすると、充分に冷めない状態でお骨上げをすることになるから、ご遺族に怪我や火傷をさせてしまうリスクが出てくるんです。それを防ぐためにも、火葬時間はなるべく短くしたいんですよね。