「バラバラのご遺体を火葬した場合、骨を並べ直すかどうか」火葬場職員が独断で判断してはいけないワケ
――火葬場の職員には、想像以上の臨機応変さが求められるのですね。
下駄 そうですね。ただ、どんな場合でも、基本的には職員1人で判断しないという原則があるんです。例えばバラバラのご遺体を火葬した場合、当然バラバラの状態の焼骨ができあがります。
この骨を、もとあった場所に並べ直すのか、バラバラのままにするかは悩みどころです。骨を並べ直して「きれいにしてくれた」と喜ぶ方もいれば、「勝手に触られた」と不快に思う方もいますから。
先ほど話した、“小石”についても同じです。ご遺体と一緒に小石が入っていたら「なぜきれいに取り除いてくれなかったのか」と不快に思う方もいれば、その状態を見て「これが現実なのか」と受け止める方もいます。
こうした判断は火葬場職員ではなく、最終的には葬儀屋さんに委ねます。葬儀屋さんはご遺族と直接話す機会が多いから、ひととなりやご意向もある程度把握している。とにかく、火葬場職員が独断で判断しないよう心がけていますね。
――火葬場の先輩や上司よりも、ご遺族との関係性がある葬儀屋さんに相談するわけですね。
下駄 最近は、ご遺族を第一に考える火葬場が増えてきています。以前は、火葬してもらわないと困るから、葬儀屋さんはもちろんご遺族よりも火葬場の方が立場が上、と考えているところがあったんですよ。ご遺族の意向なんておかまいなしに、好き勝手振る舞う火葬場職員も少なくなかったんです。
でも、火葬場の事情がオープンになるにつれて、職員の考えも少しずつ変化してきた。今でも、古い考えのまま経営している火葬場はありますが、それよりもご遺体やご遺族のことを最優先に考えるところが増えてきていると思いますね。
殺人事件によるご遺体も、火葬場に運ばれてくる
――書籍の中では、火葬の時点では不慮の事故で亡くなったと思っていたけれど、後日殺人事件の被害者で、犯人は火葬場で夫の死を深く悲しんでいるように見えた妻だった……という話も描かれていました。
下駄 書籍に書いた話は、僕と同じように火葬場で働いていた友人から聞いたものです。いわゆる殺人事件によるご遺体も、火葬場に運ばれてきます。ただ、書籍と同様に、殺人事件かどうかは後から知ることが多いですね。
――ご遺体が運ばれてきた段階では、死因が事件性のあるものだったかどうかわからないわけですね。
下駄 そうです。ご遺体は亡くなってすぐに運ばれてくるから、その時点では何が原因かはっきりとはわからないことも少なくありません。火葬が終わってしばらくしてから、ニュースを見ていたら「あ、この方は先日火葬した方だ」と気づくことが何回かありました。火葬するときに、顔と名前は確認しますから。
撮影=細田忠/文藝春秋
