ただ、それ以降は一気に意識が高まって。例えば2024年にあった能登半島地震では、早い段階からヘリコプターでご遺体を他県に移送して火葬することを検討するなど、広域火葬計画が機能していました。もちろん、まだまだ課題はありますが、歴史から学んで少しずつ改善されてきていると思いますね。

 一方で、さらに広域火葬計画を進めるうえで、現在の日本の火葬事情では、悩ましい点もあるんです。実は日本では、年々火葬場の数が減っていってるんですよ。

 

多死社会の日本で、火葬場の数が減少している理由

――多死社会と言われているのに、火葬場の数は減っている?

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下駄 そう。多死社会だから、火葬の件数自体は増えています。つまりどういうことかというと、1つの火葬場で火葬する件数が増えてきているんです。

 例えば、ある街に、1日5件火葬できる火葬場が2箇所あったとします。年々死者数が増えている関係で、街は新しい火葬場の立ち上げを計画することに。しかし、近隣住民から火葬場新設への反対意見があがりました。同時に、同じ街の中で2つも火葬場があることに苦言を呈する人も出てきます。

 現実問題として、火葬件数は増やさないといけません。そこで街は「今2つある火葬場を1つにまとめましょう。その代わりに、1日に10件ではなく、15件できるよう改修しましょう」と提案する。そんな状況が、日本各地で起こっているんです。

――住民の意見を汲みながら、火葬件数を増やせるという点ではいい案のように思えますが、災害時を考えると問題がある、と。

下駄 はい。街に1つしかない火葬場が災害で稼働できなくなったら、その地域では全く火葬できなくなってしまいます。災害対策の面から考えれば、いろんな地域のいろんな場所に火葬場があることが理想です。

――平常時の効率性と災害時の対応力、この2つのバランスを取るのは難しそうですね。

下駄 そうなんです。「うちの近くに火葬場があるのは嫌だ」という意見がとにかく多く、どんどん火葬場の数は減り、街の中でも人気のないところに追いやられていく。住人の気持ちももちろん分かるのですが、災害時を考えると正直心配です。

 

火葬場は重要な社会のインフラ

――そういう話を聞くと、火葬場って重要な社会のインフラなんだな、と感じます。ご遺族の精神的なケアという面だけでなく、衛生面や社会機能の維持という点でも、火葬場がないと大変なことになりますね。

下駄 日本全国に火葬場はありますが、その規模はさまざまです。例えば日本最大規模と言われる名古屋の八事斎場には、46基もの火葬炉があります。2回転すれば、1日でほぼ100件の火葬ができる計算ですね。

 一方で、地方の小さな火葬場だと、炉が2つしかないところも少なくありません。ただ、どんなに人口の少ない地域でも、どんなに小規模な施設でも、故障や災害に備えて最低2つの炉を維持しているところがほとんどです。まさに、インフラだからこその備えですよね。