――下駄さんには、これまでも度々取材をさせていただきました。そのたびに、「火葬場の現状が広まってきていると思いますか?」と聞いてきましたが、最近は何か変化を感じていますか?
下駄 最近、知り合いの葬儀屋さんから面白い話を聞いたんですよ。ご遺族から「火葬後の骨についているカラフルな色は、花の色じゃなくて金属の色なんでしょう」という質問が増えているんですって。
僕が火葬場で働いていたときは、まずそんな質問をされることがなかった。また、これまでYouTubeや漫画で何度か「骨についた色は金属の色だ」と発信してきましたが、そのたびに驚かれることも多かったんです。でも少しずつ、変わってきてるというか。現場の人たちから今回のような話を聞く機会が増えてきて、すごく良い変化だな、と思っています。
元火葬場職員が「日本は“死”をタブー視している」と感じるワケ
――これまでは閉ざされた場所、触れにくい領域と思われていた火葬場について、情報が出回ることで関心を持つ人が増えてきているんですね。
下駄 はい。一方で、日本はまだまだ火葬場というか、“死”をタブー視しているな、と思った出来事もあって。
先日、台湾でトークイベントをする機会があったんですよ。その時に、「日本では、焼骨に色がついていたら、本当は金属の色なのに『花の色が移った』と説明する文化があった」と話したところ、「そんなはずがないだろ」って会場から大きな笑いが起こったんです。
――国による文化の違いが表れていますね。
下駄 日本では、“死”に関する話題でドッと笑うことってないですよね。国によって死生観や火葬に対する意識がこれほど違うのかと、興味深かったです。
――他にも台湾と日本の火葬や葬儀に関する違いを感じた点はありますか?
下駄 台湾の火葬では、ご遺体が炉に入る瞬間に参列者が一斉に「逃げて!」と声をかける文化があるそうです。なんでも、ご遺体の魂に向けて、火から逃げるように呼びかけているんだとか。日本では想像しがたい光景ですよね。
火葬場への理解が、災害への備えとなる
――最後に、東日本大震災や能登半島地震のような大災害は、今後も起こる可能性があるというニュースをよく目にします。今回のインタビューでは「火葬場はインフラ」という話も出てきましたが、これからの社会の火葬場について、どう考えていますか?
下駄 火葬場の建設計画が持ち上がると、必ず反対運動が起きます。でも実は、その影響をもっとも受けるのは反対している住民自身なんです。施設がなければ、何かあったときに火葬の待ち時間は非常に長くなる。もし大規模災害が発生したら、火葬そのものができなくなってしまうかもしれません。
「自分の住む地域には建ててほしくない」という気持ちはわかります。でも、災害の可能性も含めて少し考えていただき、火葬場の必要性を理解する人が増えてくれたら……。
これから来るであろう大規模災害に向けて、少しでも多くの地域で火葬機能が維持できるよう、今からできることをしていく。それが、亡くなった方への最後の敬意を表すことにもつながると思います。
撮影=細田忠/文藝春秋
