今年の第71回カンヌ国際映画祭は、ハリウッドのハーヴェイ・ワインスタインのセクハラ問題で始まった#MeToo運動を引き継ぐものでした。長編コンペティション部門の審査委員長はケイト・ブランシェット。会期中にはレッドカーペットの敷かれた階段に、ブランシェットをはじめとする82人の女性が登場する場面も。82人という数は、1946年にカンヌ国際映画祭が始まってから、現在に至るまでにコンペに選ばれた女性監督の数を表しています。

審査委員長をつとめたケイト・ブランシェット ©getty

 そして今年日本で話題となったのは、是枝裕和監督の『万引き家族』がカンヌの最高賞であるパルムドールを受賞したこと。日本映画としては1997年の今村昌平監督作『うなぎ』以来、じつに21年ぶりとなる快挙です。審査委員長のケイト・ブランシェットが、安藤サクラの演技を絶賛したのも印象深い出来事でした。

安藤サクラ ©getty

『万引き家族』をめぐるナショナリズム的な意見

『万引き家族』は公開前から作品のタイトルをめぐって、ナショナリズム的な意見が目立ちました。万引きという貧困による犯罪を家族ぐるみで行う映画を作り、海外の映画祭や映画館で上映するのは、日本の恥部を世界に晒す行為ではないかという懸念です。でも、どんな国でも貧富の差はありますし、貧しい人々を描いた映画は世界中で毎年大量に制作されているものです。はるか昔から海外で高い評価を受けている日本映画も、殺人や団地妻の不倫や当たり屋などを扱いながら、それで経済成長が疑われるようなことはありませんでした。映画とは社会文化の一部の切り取りであると我々も認知しながら海外映画を観ているのだし、そこは危惧を抱く必要はないと思います。

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『万引き家族』TOHOシネマズ日比谷ほか全国公開中 ©2018フジテレビジョン ギャガ AOI Pro. 配給:ギャガ

 また『万引き家族』に関しては、内容に対しても誤解が先行している印象を受けます。正直、タイトルに「万引き」を冠しているのは、ちょっと狙いすぎかもしれません。これについては、監督が途中から『声に出して呼んで』というタイトル案を出していたのに対し、プロデューサーがインパクトを優先して『万引き家族』で落ち着いたとのこと。確かに話題性としては完全にプロデューサーの勘が当たっていましたね。