カンヌ映画祭でパルムドールを受賞した是枝裕和監督の「万引き家族」を観た。
是枝監督作品は、「リアリティが素晴らしい」とよく言われるが、ストーリーの全体像に関して言うと、私は極めてフィクショナルだと思っている。犯罪を生業にして暮らす家族が主人公の本作も、設定そのものや徐々に明らかになる家族の秘密は、よくよく考えてみると荒唐無稽な物語だ。このシナリオで別の監督が撮ったら、「そんな話あるかよ!」と思ってしまうかもしれない。だがもちろんそうはならないのは、是枝監督の場合、大枠はフィクショナルでも「細部のリアリティ」が素晴らし過ぎるので、腑に落ちてしまうのだ。
「是枝メソッド」とは何か
是枝作品における子役の演技は、「誰も知らない」で世界を驚嘆させて以来定評があるが、「万引き家族」にもちょっと信じられないような場面が満載だ。リリー・フランキーと樹木希林の常連俳優二人はとても演技をしているようには見えず、新たに参加した松岡茉優は、思いがけず貧しい犯罪者家族の一員にフィットしていた。そして何といっても、安藤サクラ! 映画を観て数日たった今も鮮明に思い出せる場面や表情が多くあるが、中でも息子と二人でラムネを飲みながら商店街を歩くシーンでの彼女には、度肝を抜かれた。
これらすべてが、俳優の自然体を究極に映し出す「是枝メソッド」とでも呼びたくなるような、監督の演出力の賜物なのだ。
「NONFIX」の是枝さん
さて。
是枝監督は、テレビドキュメンタリーを作っている者からすると特別な存在だ。
何しろテレビは映画より下、と思われがちな世界で、映画畑出身ではない「テレビディレクター」だった是枝監督が、世界最高峰の映画祭を制したのだから。例えて言えば「ウチの村からスターが生まれた!」という感じかも知れない。
だが私にとって是枝さんは、今回の快挙でスターになったのではなく、テレビディレクター時代から、その名を知らぬスターの一人だった。いや、正確に言うとスターの名は、フジテレビの「NONFIX」という深夜番組だった。