「少年院にいた頃、篤志面接に来ていたアンジェラさんという名の欧米系の修道女の人がいたんです。彼女を通して神様と出会い、洗礼を受けました。世界一の冤罪被害者はイエス・キリストですから」と語った。
事実と異なる目撃証言をした6人について、前川さんは「自分を貶めようとする気配を感じたことはなかった」という。
「悪友だらけでしたが、私への敵意を感じたことはありませんでした。中学生が殺されたニュースを見て、『前川お前やろ、早く自首せーよ』なんて冗談ぽく言い合うこともありました」
その中の1人、A男について前川さんはこう語る。
「『前川が犯人』と警察に証言したA男は、覚せい剤の常習犯です。齢はひとつ上で、臆病者だけど何をするかわからないところがあって怖かった。でもこの事件で私を嵌めたことがわかり、彼は男を下げたのではないでしょうか」
数年前、前川さんは偶然A男に会ったという。
「母が入院していた病院に面会に行った時、偶然A男がロビーに座っていたんです。目があっても相手が何も言わないので『おい、Aやろ』と声をかけたら委縮した感じでした。『あれはないやろ』と言っても黙っていたので『恨みがないと言ったら嘘になるけど、いまさら危害を加える気はないから』と言ったら安心したのか、緊迫した雰囲気は消え、『気にかけていた。悪かった』とは言ってくれた」
「供述を取引材料に自らの減刑や保釈などの利益を図ろうとする態度が顕著」
前川さんの冤罪事件が特殊なのは、「6人の証言に信用性がない」として一審の福井地裁では無罪になっていることだ。
その後1995年に名古屋高裁金沢支部の控訴審で当初の証言を翻して逆転有罪となったため、「やり直し裁判」の舞台も同支部になっている。
前川さんは10代の頃、シンナーに溺れて窃盗を繰り返し、少年院に送られたこともある。
捜査陣は素行不良だった前川さんを犯人に仕立てると決め、関係者の証言を誘導したとみられている。
再審開始を決めた文章の中では「供述を取引材料に自らの減刑や保釈などの利益を図ろうとする態度が顕著」、検察についても「罪深い不正行為」と強い語調で指摘されている。

