その物語を映画化しようというアイデアはどこから出てきたのか。この質問に対してはチェン監督が言葉を引き取る。

「CMプロデューサーのジョンとはニューヨークで10年来の付き合いなんですが、ある日ジョンから『父に最悪のことが起きた。真相を突き止めてFBIに情報を提供するのに力を貸してほしい』と言われ、ふたりでジェリーが住むフロリダを訪ねたのがきっかけです。ジェリーから事の顛末を聞いて、これは映画の題材になると思ったんです」

──近年のアメリカ映画では、アジア系アメリカ人による作品がブームと言えるほど盛り上がっていますが、制作にあたってそれが追い風となった部分はあるのでしょうか?

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「はい、恩恵を受けた部分はあると思います。僕らの作品はアジア系アメリカ人のある体験を描いているわけなんですけど、少し前ならアメリカの異文化圏の話は見向きもされなかったと思います。でも今は『ちょっと見てみようか』みたいな機運があると思うんです」

©2023 Forces Unseen, LLC.

ジェリーからのメッセージ

 当のジェリーは映画化によって、世界中の詐欺被害予備軍にメッセージを送りたいと考えている。

「私の体験と映画が、多くの人たちにとって警鐘となれば嬉しいです。奴らの手口を知ってほしいし、私以外の被害者にもっと自分の体験を語ってほしい。世界中で多くの人が被害に遭っているわけですから」

 そして、一連の出来事にはポジティブな面もあったという。

「私はいま、生活コストを抑えるために台北で暮らしています。家族との物理的な距離は遠くなりましたが、映画がきっかけで再び集まる機会が増えたのはすごく嬉しいです。散々な目に遭ったわけですけれど、なんかそういうのも忘れちゃうぐらい楽しい団欒を楽しめているんです。失ったものは大きいけれど、最終的にはいい経験になりました。事件と映画化の話がなければ、つまらない単調な定年生活を送っていたと思います」

 実は渡米したての頃のジェリーは、その後の人生からは想像できない夢を持っていた。そして今回の映画化により、その夢は叶ったとも言える。それがなにかについてはスクリーンで確かめてもらいたい。なにより今作がヒットして、少しでも損失を取り戻せるよう祈るばかりである。

映画『ジェリーの災難

3/20(木・祝)よりTOHOシネマズ 日比谷ほか全国公開

主演|ジェリー・シュー
監督|ロー・チェン
脚本|ジェリー・シュー/ロー・チェン
配給|NAKACHIKA PICTURES
制作|2023年 アメリカ 上映時間|75分
https://jerry-movie.com/