──その種の詐欺の手口を知らないことはなかったと思いますが、なぜやすやすと口車に乗ってしまったのでしょうか?

「最初はただ混乱するばかりでしたが、詐欺師たちがとにかく優しいんですよ。中国警察ってこんなに優しいのかと思うくらい。会話のなかでこちらを逐一気にかけて安心させてくれる。だからついガードが緩んでしまって、彼らの言葉を信じ、指示やアドバイスに従ってしまいました」

──それにしてもスパイ映画顔負けの活動に違和感を感じることはなかったんでしょうか?

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「隠し撮りをしろとか会話を記録しろとか送金しろとか、マネーロンダリングに関わっていないことを証明するのに、なぜここまでしなくてはいけないのかともちろん疑問に思いました。彼らに聞いてみたら、『これは君の無実を証明するため』『君のことを助けようとしている』『君は素晴らしい協力者だ』なんて励まされて、やる気にさせられる。『上海では名誉市民扱いになる』とも言われました。なおかつ、日々の体調を気遣ってくれたり、監視活動を褒めてくれたりもするので、もう完全に味方だと思っていたんです」

──銀行に対して実際にスパイまがいの捜査を行なっていましたが、おかしいとは思いつつも使命感に燃えるようなところはあったのでしょうか?

「はい、映画の描写には演出が入っていますが、あの銀行を捜査しなければならないと思っていたのは事実です。なにより、強制送還は恐ろしいですからね」

©2023 Forces Unseen, LLC.  

映画化による心の回復

──すべての送金を終えて詐欺に遭ったことに気づいたときは、どういった感情を抱かれたのでしょうか?

「世界が崩れていく感覚。やっぱり相当ショックでしたね。馬鹿なことをした、この先どうやって生活していこうかとぐるぐる考えながら、相当なストレスを感じていました。そして、そこで初めて息子に連絡しようと思い立ったんです。なにしろ“中国警察”からは『潜入捜査は家族にも口外できない』と厳命されてましたからね」

 その息子とは、今作のプロデューサーを務めるジョン・シューである。ジョンは父親の突然の告白に当初は驚くばかりだったという。

「住む場所に物理的な距離があるし、男同士ということもあって用がない限りは連絡をとりあうことはありません。たまに会話して元気だからと安心しきっていたことで、父があんな目に遭ってしまったことには罪悪感を感じます」