事件は賃貸住宅で起きている――。日頃、ニュースで報道されるさまざまな事件は賃貸住宅の一室で起きていることが少なくない。最近でいうと、座間アパート殺人事件が記憶に新しいだろう。
全国賃貸住宅新聞社が発行する賃貸不動産オーナー向け情報誌「月刊家主と地主」では、賃貸住宅で起きた事件やトラブルなどをしばしば特集として取り上げる。取材すると、賃貸住宅はトラブルの巣窟といっても過言ではないほど驚くようなことが起きる。テレビや新聞で報道されるような大きな事件の現場から社会問題となっているオレオレ詐欺や窃盗団などのアジト、さらに孤独死、ストーカー問題など枚挙にいとまがない。
今回はこうした賃貸住宅で起きるトラブルについて紹介したいと思う。
case1・空き部屋が詐欺に利用される
東京都豊島区の不動産会社に、家主から管理を任せられている物件の空室に、他の不動産会社から入居希望者を案内したいという内見の依頼があったのはある土曜日の夕方だった。担当者の名刺をファクスで送ってもらって確認し、管理物件に設置している部屋の鍵が入ったキーボックスの場所と暗証番号を伝えた。
異変に気付いたのは翌日。内見の結果を聞こうとその名刺にある電話番号にかけたが繋がらなかった。不審に思って名刺に書いてあった宅建業者の免許番号を照会するとなんと「該当なし」。
「最近聞く、空き物件を悪用した不正な宅配受け取りなのかもしれない」。こう思った同社の社長は、警察に相談。警察のアドバイスを受け自作の空室悪用防止のシールを集合ポストとドアポストに貼り付けに行ったところ、銀行からのカード作成の郵便物と宅急便不在票複数点の物証を押さえた。すでに受け取られた「不在票」の荷物の中身が詐欺被害者の送った現金だったようだ。後日、北海道の警察から、空き部屋利用詐欺事件で名刺に書いてあった人物が逮捕されたと連絡があった。
ネット通販の利用者が増えている中、クレジットカードの番号を盗みインターネット販売で不正に購入するケースが増加している。ネット通販大手の楽天によると、2015年に9万件約72億円分の不正配送の注文を止めており、配送先の9割は賃貸住宅の空室だという。犯罪者はこの不正に購入した商品の受け取り場所として賃貸住宅の空室を利用しているのだ。
「不審な問い合わせに対しては名刺のファクスだけでなく担当者の身分証を送らないと内見させない、といった対策を打ち出すことが不動産会社としては必要ですね。この後に似たような問い合わせがあったのですが、それは未然に防ぐことができました」と社長は語る。