高学歴で知的レベルが高く、有名校や一流企業に所属しているのに、大学で周囲から孤立、職場ではまったく評価されない。空気が読めず、ミスを連発してしまう。将来を約束されたエリートだったのに、彼ら彼女らはなぜ“転落”してしまったのか。共通しているのは「発達障害」を抱えているということだ。
ここでは、精神科医の岩波明氏が、高学歴発達障害の人々の現状や、いかにして回復して社会復帰するかを提示した著書『高学歴発達障害 エリートたちの転落と再生』(文春新書)より一部を抜粋。発達障害を公表している世界有数の資産家・イーロン・マスクの“特性”について紹介する。(全4回の2回目/1回目から続く)
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カナダ移住後に掴んだ成功
1989年、イーロンは母方の親戚を頼ってカナダに移住した。これは行き当たりばったりの行動だったが、彼の「覚醒」の第一歩となった。イーロンは親類の農場や穀物貯蔵所などで働きながら、カナダのクイーンズ大学をへて米国のペンシルベニア大学で経済学と物理学を学んだ。
やがて弟のキンバルも合流し、彼らは新聞から情報を得て興味のある人物をみつけると、いきなり電話をして「会ってランチをご一緒したい」と申し出ることを繰り返した。こうして2人は、大リーグのマーケティングの責任者や、経済誌の記者、銀行の役員などに実際に会うことができた。
1995年、イーロンはインターネットを使用した道案内サービス会社を起業し、さらに1999年にはペイパル社の前身であるXドットコム社の共同設立者となった。こうした事業の売却により、イーロンは巨額の利益を手にした。2002年に宇宙輸送を可能にするロケットを製造開発するスペースX社を設立。2004年には電気自動車ベンチャーであるテスラ・モーターズ社に出資し、その後会長およびCEOに就任した。