高学歴で知的レベルが高く、有名校や一流企業に所属しているのに、大学で周囲から孤立、職場ではまったく評価されない。空気が読めず、ミスを連発してしまう。将来を約束されたエリートだったのに、彼ら彼女らはなぜ“転落”してしまったのか。共通しているのは「発達障害」を抱えているということだ。
ここでは、精神科医の岩波明氏が、高学歴発達障害の人々の現状や、いかにして回復して社会復帰するかを提示した著書『高学歴発達障害 エリートたちの転落と再生』(文春新書)より一部を抜粋。発達障害を公表している世界有数の資産家・イーロン・マスクの“特性”について紹介する。(全4回の1回目/2回目に続く)
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イーロン少年に受け継がれた「危険な状況を好む」特性
イーロン・マスクは世界有数の資産家であり、世界一の富豪とも言われる。同時に彼は、ビジネス界におけるトップリーダーであり続けている。イーロンがCEOを務める電気自動車企業テスラ社は、世界のマーケットにおいて最も注目されている企業の1つである。けれどもその株価は、イーロンの奔放な発言によって乱高下する。
テスラにとどまらず、イーロンは宇宙開発企業スペースXの創設者およびCEO、太陽光発電システム企業ソーラーシティの会長なども務めている。ウクライナ戦争の初期には、スペースXの人工衛星の通信システムを用いてウクライナを支援したことも記憶に新しい。
イーロンは1971年、南アフリカ共和国の富裕層に生まれた。父親は電気関係の技術者で、自らの事業でかなりの成功を収めていた。母親はカナダ出身である。母方の祖父ジョシュアは、型破りの特異な人物であった。彼は母国でカイロプラクティックの診療所を経営していたが、飛行機に興味を持ち、自ら操縦して北米中を飛び回っていた。
ジョシュアは1950年、突然南アフリカへの移住を決めた。自宅も診療所も売り払い、一家そろって南アフリカのプレトリアに転居した。そこで彼は、アフリカからスコットランド、さらにオーストラリアへと自ら操縦桿を握って文字通り飛び回った。この祖父の「危険な状況を好む」特性は、イーロンに受け継がれているようである。