「日本三大ドヤ街」の一つ、大阪市西成区の釜ケ崎。YouTubeなどで「治安が悪い」イメージが強調されがちな街だが、近年は違法露店や覚醒剤の路上密売は激減している。そんな釜ケ崎の「憩いの場所」で炊き出しを続ける男性がいる。発売中の書籍『西成DEEPインサイド』(朝日新聞出版)から一部を抜粋・編集して紹介する。(全2回の2回目/1回目から続く)

三角公園で炊き出しを行うダルビッシュ翔さん(中央)

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「三角公園」で炊き出しを行うダルビッシュ翔

 釜ケ崎には、「へそ」ともいえる場所がある。

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 通称「三角公園」。テレビやトイレがあり、日雇い労働者や路上生活者らが集まる憩いの場所だ。

 ここでは、曜日や時間を変え、複数の団体が炊き出しを続けている。

 2023年6月29日の夕方にも、150人ほどの行列ができていた。

 毎週木曜、ダルビッシュ翔さん(36)らのグループ「大阪租界」が始めた炊き出しに並ぶ人たちだ。翔さんは大リーグで活躍するダルビッシュ有投手(38)の弟。炊き出しはこの日でちょうど100回目を迎えていた。

 黄色いタオルを首に巻いた大柄な翔さんが、牛丼をずんどうから皿によそっていく。

「おかわりはなしですよー」「食べ終わったら皿をごみ箱にお願いしまーす」。公園を回るスタッフの声が響いた。

「ワルビッシュ」とも呼ばれるように

 スタッフは傷害や窃盗、覚醒剤使用などの容疑で逮捕された前科のある人が多い。

 翔さんも逮捕歴11回。最初の逮捕は14歳のとき。中学校内での傷害容疑だった。

 直近は15年で26歳のとき。野球賭博を開いた容疑で、大阪府警で暴力団捜査を専門とする捜査4課の取り調べを受けた。懲役2年4カ月執行猶予5年の判決を言い渡された。

 大リーガーの兄や、周りの人たちに迷惑をかけるワルの弟。「ワルビッシュ」とも呼ばれた。

 過去に罪をおかした自分や仲間が、どう社会に関わっていくか。翔さんが仲間と相談し、行き着いたのは炊き出しだった。

「えらそうに完全に更生したと言い切れるかわからんけど、自分も仲間も現状はここにある。コンプライアンスに厳しくなった社会の中で、世間にも地元にもそれを示したかった」