共生関係にあるプロテスタント系教会と保守勢力

 また、今回はサラン第一教会の全光焄牧師ら、過激なプロテスタント系教会関係者らが尹氏の支持に回った。韓国のプロテスタントは日本統治時代、今の北朝鮮地域で栄えた。宗教弾圧を行った北朝鮮と、親北朝鮮政策を取ってきた進歩勢力を憎む傾向があり、保守勢力に接近した。プロテスタント系教会は、それぞれが独自採算性を取っているため、資金が潤沢な保守勢力に票を回す代わりに経済的な恩恵を受けるという共生関係にもある。

 さらに、保守勢力の「尹氏の弾劾は不当だ」という主張を毎日伝え、増幅してきたのが極右系ユーチューバーたちだ。保守系与党「国民の力」議員ですら、「ユーチューバーの狙いは、過激な主張で再生回数を増やして利益を得ること」と指摘してはばからない。

 その一つ、ユーチューブチャンネル「高成国TV」の登録者は、私が取材した昨年末時点で約115万人だったが、現在は124万人にまで伸びた。高成国氏は「1人でやるなら、登録者10万人が損益分岐点」と語る。毎日の生放送を維持するため、7~8人のスタッフがいるというが、十分利益が出ていると言えるだろう。高成国氏は4日、尹氏罷免を受けた緊急生放送で「この国は(憲法裁の)判事8人だけの国ではない」と怪気炎を上げた。

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戒厳令宣言の発端の一つになったとも言われている金建希大統領夫人 ©時事通信社

多くの若者は自分の就職で頭がいっぱい

 一方、若い世代が尹錫悦大統領の弾劾に反対しているという報道も目立った。ソウル・漢南洞の大統領公邸前に詰めかける若者や、大学で尹氏を擁護する「時局宣言」を出す大学生もいた。ただ、大学で教えている知人は「ごく一握りの若者だけに見られる現象。圧倒的多数の若い人々は自分の就職で頭がいっぱいで、政治のことなど構っていられない」と語る。

 また、利権に執着しているのは保守層だけとは限らない。保守層は「富裕層でありつつ、進歩を支持する人々」を「江南左派」と呼んで批判してきた。「いい子ぶるな」という意味だ。保守系の知人は一例として「弾劾賛成集会にコーヒーを差し入れた芸能人には問題があった」と語る。真偽不明だが、保守勢力がこの芸能人の米国入国ビザの発給を認めないよう運動を起こすと、この芸能人は政治的な発言や行動を控えるようになったという。この知人は「江南左派の奴らは米国を非難しながら、自分の子どもを米国に留学させている」と憤る。

李在明氏陣営に列をなすポリフェッサー

 韓国では今、次の利権をめぐる争いがすでに起きている。知人の一人があきれたように語る。

「李在明キャンプには、我も我もと人が押し寄せている」

「ポリフェッサー(ポリティカル・プロフェッサー)」と呼ばれる政治的な野心を持った学者、官僚や軍人としては今一つ出世できずに権力に執着を残す者、「反権力」を旗印に仕事をしながら権力にあこがれるマスコミ関係者らが、李在明氏陣営に列をなしているのだという。

 韓国には「オーゴン(オッチョミョン・コンムウォン=もしかして公務員)、ヌルゴン(ヌル・コンムウォン=いつも公務員)」という言葉がある。後者は公務員試験に合格した人々で、前者は時の政権の恩恵を受けて、大統領室職員や大使などに任命される人々を指す。韓国の元政府高官は「保守政権か進歩政権かで、自分の運命も一変する。だから、みな目の色を変えて闘争する」と話す。

 存外、人間の住む世界とはそんなものなのかもしれない。つい先日刊行されたばかりの拙著「韓国大乱」(文春新書)では、こうした韓国社会の様々な姿にも焦点を当てている。

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