現役大統領が逮捕される事態となった韓国。そもそも戒厳令騒動は、なぜ起きたのか。その思惑とは? 韓国駐在して40年になる、産経新聞ソウル駐在客員論説委員の黒田勝弘氏が分析した。
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夫人の「バッグ事件」に苛立った
それにしても尹大統領はなぜ勝ち目のない「季節はずれ」の戒厳令に踏み切ったのか?
戒厳令談話に出てくる、議会を支配した野党の横暴による国政マヒという主張はあたっている。しかしその解決手段が戒厳令というのは的外れである。この錯誤はどこからきたのか?
野党にいじめられ続け、人事も予算もままならず、野党陣営による虚実とり混ぜた“ストーカー政治”あるいは“魔女狩り”にも見える夫人に対する執拗な疑惑追及……ストレスと苛立ちが昂じての判断ミスか。あるいは頑固で人の意見に耳を貸さず「思い込んだら一途」の独善タイプのせいか。韓国メディアには「妄想的な心の病」などという医学的分析さえあった。
実際のところ、予算でいえば、たとえば検察・警察・軍隊などの治安関係の活動費や人件費など日本円で約4000億円が野党の勝手で政府案からカットされていた。人事では大統領弾劾の前に閣僚など要職17人が弾劾の対象にされている。
しかし、筆者の見立てでは、夫人問題での苛立ちが、錯誤に陥った最も大きな原因ではなかったか。いわゆる“夫人疑惑”として世論をひどく刺激し、支持率低下を招いたのは「ブランド物バッグ事件」だが、この真相は親北朝鮮系の在米韓国人牧師と野党系ユーチューバーが仕組んだワナだった。彼らは夫人の父親の友人だったと称して接近し、夫人にディオールのバッグをプレゼントする場面を隠し撮りし、それを「ワイロを渡した」と言って暴露したのだ。明らかに陰謀である。
夫人はむしろ“被害者”だったのに、野党陣営とメディアはこれを“権力疑惑”として大々的に非難キャンペーンを展開。世論は長く沸騰した。後に検察捜査で法的に嫌疑無しとなったものの疑惑イメージは残り続けた。