韓国の憲法裁判所は4月4日、昨年12月3日に戒厳令を布告した尹錫悦大統領の弾劾を罷免した。60日以内に次の大統領選が行われる。現時点では、進歩(革新)系の最大野党「共に民主党」の李在明代表が次期大統領として有力視されている。

 戒厳令の是非を巡っては、保守勢力が「司法や行政を麻痺させた進歩勢力の横暴」を唱え、進歩勢力は「自由な政治活動や市民生活を奪おうとした大統領の横暴」と応酬してきた。4日も両陣営はソウル市内で大規模な集会を開いた。だが、韓国の複数の知人たちは「正義をめぐる対立と言えないこともないが、利権をめぐる争いという側面もあった」と語る。

3月8日、拘置所から釈放された際の尹錫悦大統領 ©時事通信社

「慶尚道の連中は、利権を食い荒らされることに我慢がならない」

 知人の一人、韓国政府元高官は尹氏の弾劾を批判していた勢力について「既得権層、改新教(プロテスタント)関係者、極右系ユーチューバーだ」と語る。既得権層とは、韓国の主な政治家や検察、国税、財閥などを指す。ほとんどが、韓国南東部の慶尚道を源流とする。

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「ソウルや忠清道などの出身者が既得権に加わることも認めるが、(南西部の)全羅道出身者は基本的に拒否する」

 慶尚道出身の朴正煕大統領以降、長く続いた軍事政権は、道路や鉄道などのインフラ整備を慶尚道で優先的に進めた。全斗煥・盧泰愚両大統領らが所属し、朴氏の事実上の親衛隊として韓国軍で権勢をふるった私的組織「ハナフェ(ひとつの会)」も大多数を慶尚道出身者が占めた。元高官は「慶尚道の連中は、こうした利権を文在寅(元大統領)や李在明らに食い荒らされることに我慢がならない」と語る。

 そして韓国には「人はソウルへ、馬は済州島へ送れ」という言葉がある。功成り名を遂げた人々はソウルに集まる。韓国の最難関大学、ソウル大学の合格者の6割はソウル出身者だ。また、合格者全体の2割を、富裕層が集まり、有名な学院(塾)が集中するカンナム3区(ソウル市江南、瑞草、松坡の3区)出身者が占める。韓国には生まれついての格差の存在を示す「クムスジョ、フッスジョ(金のさじ、泥のさじ)」「アッパ・チャンス(父親によって機会の多寡が決まる)」という言葉も広く定着している。こうした富裕層が尹氏ら保守層を支持している。