「事業者たる地方公共団体の任命権者は、みずからもパワハラに対する関心と理解を深め、職員に対する言動に注意を払うよう(総務省通知に)明記しています。さらに、公務職場におけるパワハラ防止対策検討会のまとめでは、パワハラになり得る言動として、書類で頭をたたく、物を投げつけるといった暴力のほか、人格を否定するようなばり雑言を浴びせる、ほかの職員の前で無用なやつと言うなどの暴言、さらに、自分の意に沿った発言をするまでどなる、自分のミスを部下に責任転嫁するなどの威圧的行為の事例を挙げ、ばか、死ね、出ていけとの暴言の告発も寄せられています」(県議会議事録)
2020年6月に労働施策総合推進法が改正され、パワーハラスメント対策が大企業の義務になった時期でもある。大井川知事からは「県では法改正以前からハラスメント発生の防止、迅速な対応に努めてきた。県庁組織全体として取り組むべき課題と認識し、ハラスメント対策を徹底する」という一般的な答弁で終わった。
「秘書課の職員が死亡したことは事実です」
県にはハラスメントに対する内部窓口はあったが、利用しにくいなどの理由から2024年11月になって外部窓口が設置された。ただ、その直前の10月20日、茨城県庁で知事や副知事を担当する秘書課の職員が死亡した。ある県議に寄せられた情報をもとに、職員の年齢、死因について県に事実関係について確認すると、「秘書課の職員が死亡したことは事実です。遺族のご意向があるため死因は申し上げられない。年齢も個人情報となるので申し上げられない」(秘書課)とする。同県議は「死因について県による調査が必要です」と深刻な口調で話した。
茨城県庁内のメンタル疾患の増加について、ある県庁職員は、「知事が提案する施策について、行政として懸念されることを進言すると『やる気がないのか』と言われてしまうようです。それで落ち込む職員は少なくない」と内情を話し、他の関係者も「おとなしい人柄の職員が多く、上司にモノ申すことなく呑み込んでしまう雰囲気がある」と話す。それというのも、茨城県では「トップセールス」の名の下に、大井川知事が次々と「新たな」施策を打ち出しているからだ。
職員のプレッシャーと「知事案件」
茨城県の人口は約281万人。県庁所在地の水戸市の26万7000人、つくば市の25万6000人が県内で人口が多い市となる(2024年4月1日現在)。
都内からは特急電車で約1時間半で水戸駅など主要な駅に着く。県中央に位置する水戸市には日本の三大庭園「偕楽園」、ひたちなか市には「ひたち海浜公園」などの観光名所がある。栗、干し芋、メロン、豚肉、蕎麦粉、レンコンなどが名産。日立市やひたちなか市は日立製作所の城下町で、東海村には原子力関係事務所があるのが特徴だが、多くの地方と同様に少子高齢社会のなかで課題は多い。
前知事の橋本昌県政が6期つづき、2017年8月の県知事選で、当時IT関連会社ドワンゴの取締役だった大井川氏が自民・公明の推薦を受けて当選した。大井川知事は、「活力があり、県民が日本一幸せな県」を基本理念にするとして、「失敗を恐れず、新しいことに積極果敢に挑戦する」をうたい文句にしている。知事就任からほどなくワンマンぶりを発揮し、2019年には次々と“知事案件”が打ち出された。それらの多くが県庁記者クラブでマスコミ向けに行なわれる定例記者会見で知事が初めて発表するため、関係者には「寝耳に水」ということが多かったという。