あまりに残酷な仕打ちから、韓国社会を激震させ、映画化もされたシン・ウォンヨンくん虐待・死体遺棄事件。悲劇はなぜ起きたのか? 実の息子を虐待死させた両親のその後とは? 実際に起きた事件や事故を題材とした映画の元ネタを解説する新刊『映画になった恐怖の実話Ⅳ』(鉄人社)より一部抜粋してお届けする。(全2回の1回目/続きから読む)
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児童虐待が見過ごされがちなアジア諸国
児童虐待問題や非行などの思春期問題への対策の一環として、インターネットを利用した情報の収集・提供を行う「子どもの虹 情報研修センター」が公表した資料によると、2022年の1年間で、19歳以下の子供に対する虐待が通報された数は、アメリカが世界で最も多く約205万件(子供1千人に対して約27.6人)、イギリスが約65万件(同約55.3人)、日本が約21万9千件(同約10.7人)、韓国が約4万4千件(同約6.1人)となっている。
数字の割合だけを見れば、イギリスの虐待件数が飛び抜けており、日本や韓国は少ないように思えるが、実態はそうではない。子供に対する人権意識の高い欧米に比べアジア諸国は児童虐待に対する社会的認識が低く、本来なら通報されるべき多くの事例が見逃されているのだ。
「実際の虐待事件」をもとに作られた韓国映画
2018年公開の「虐待の証明」は、韓国で大きな社会問題になっている子供に対する虐待事件を告発した社会派ドラマで、映画は2016年に韓国で7歳の男児が両親から受けた暴行により死亡した実際の事件をモチーフに作られた。
物語の主人公は母親から虐待を受け施設で育った女性。ある日、彼女は道端で体に痣を負った少女を見つける。誰かに虐待されているのは明らかで、女性は少女に自分の過去を重ね合わせ手を差し伸べる。が、虐待を働く少女の父親と継母に犯罪の認識はなく、女性から少女を取り上げ元の暮らしに戻してしまう。
ストーリーはほぼフィクションだ。主人公のモデルになった女性も実在しない。しかし、父親と継母から虐待されている子供という設定は、実際の事件にそのまま合致する。
事件の舞台は韓国・京畿道南部の都市、平沢。2013年8月、当時5歳のシン・ウォンヨンくんは実母と姉の3人でこの街で暮らしていた。が、両親の離婚により親権が実父のシン・モ(同35歳)に移り、姉弟は父親のもとへ。そこに父の再婚相手である女性キム・モ(同35歳)が入ってきたことで生活が一変する。
