昔は「タバコ1本」や「角砂糖1個」を賭けていたが…
もちろん、何かを賭けないと面白くない。昔は「1ゲームにタバコ1本」「1ゲームに角砂糖1個」という具合に慎ましいやり取りだった。ところが、1990年代半ばに配給制度がほぼ崩壊し、徐々に市場経済が広がるにつれて、賭け事も派手になってきたという。李氏も「2010年ごろには、ほとんど現金を賭けていた。海外ビジネスを展開してカネがある連中の場合、一晩で500ドルくらいのカネが動くこともあった」と話す。500ドルあれば、平壌の4人家族が半年近く暮らせるくらいの金額だ。
2011年7月に脱北した韓国・北朝鮮研究所の金日奕(キム・イルヒョク)研究員も「脱北直前の当時、一晩で10万ウォン負けた人もいた。当時、コメ1キロが1900ウォンだったから、50キロ以上買える金額だった。破産した人までは見たことがないが、生活費を突っ込んで夫婦仲が険悪になった人は大勢いた」と話す。
デジタル化が進むも「オンラインカジノ」は楽しめない北朝鮮
北朝鮮もデジタル化が進んでいる。筆者が2019年に手に入れた北朝鮮のスマホ「アリラン151」にもトランプが楽しめるアプリが入っていた。ただし、日本で今問題になっているオンラインカジノは楽しめない。
北朝鮮で一般の人が使えるのは「光明」と呼ばれる北朝鮮内だけで使えるイントラネットだけだ。北朝鮮でインターネットを利用できるのは朝鮮労働党や軍の幹部、業務上必要な学者などごくわずかに限られる。利用する場合も、決められた場所で監視員が見守るなかでしか使えない。「電子図書館」と呼ばれるネットカフェのような場所はある。そこで、イントラネットでオンラインゲームを楽しむことはあるが、基本的に同じ場所にいる身分がはっきりしている人間同士でしか対戦できない。監視国家の北朝鮮は、見ず知らずの人間がつながることを極度に警戒しているからだ。
さらに、北朝鮮は電力事情が不安定だ。平壌ですら、水力発電が低調になる冬季は朝と夕刻に数時間程度しか電気が通じない。仮にオンラインカジノを楽しめても、大金を賭けたゲーム中に電源が落ちてしまうことにもなりかねない。もっとも、李氏によれば、中国や東南アジアなどに展開している北朝鮮のIT要員が、インターネットを使ってオンラインカジノを開設し、今日も外国人から外貨を巻き上げているそうだ。
