北朝鮮は今年6月、日本海側の江原道元山近郊にある葛麻海岸観光地区を開業する。金正恩総書記はカジノホテルの建設を指示し、第1期政権時代のトランプ米大統領に投資を求めたとも言われる。北朝鮮にとってカジノは外貨を稼ぐための貴重な商売方法で、一般市民が楽しめるわけではない。代わりに市民がはまっているのが、トランプによる賭博だ。
6月に開業、年間100万人の観光客を見込んだ葛麻海岸観光地区
新型コロナウイルスの感染拡大を防ぐために一時的に国境を封鎖したことや、最盛期で年間30万人が訪朝した中国との関係悪化から、北朝鮮の観光事業は低迷している。2024年2月には4年ぶりの外国人観光客としてロシア人ツアーを受け入れたが、同年に訪朝したロシア人観光客は約1500人にとどまっている。北朝鮮の観光名所と言えば、主体思想塔や金日成像など政治的造形物ばかり。食事も貧弱なうえ、案内員に監視されて行動の自由もままならないからだ。
2016年に韓国に亡命した北朝鮮の太永浩・元駐英公使によれば、北朝鮮は葛麻海岸観光地区の完成によって年間100万人の観光客を見込んでいる。カジノは集客の有力手段だ。2000年に北東部の羅先経済特区で開業した香港資本のエンペラーホテルはカジノを併設し、中国人観光客で繁盛した。中国高官らが公金をカジノに流用していたことが明らかになったこともあり、現在は羅先でカジノ営業は行われていないという。平壌の羊角島ホテルの地下にも一時期、カジノがあった。
カジノは高嶺の花…カードゲームに熱中する北朝鮮の人々
北朝鮮のカジノには、マカオで訓練を受けた北朝鮮人ディーラーがバカラやルーレットなどを担当していたが、利用客は外国人に限られた。北朝鮮が「黄色文化」と呼ぶ資本主義の浸透を恐れたからだ。北朝鮮には競馬や競輪などの公営ギャンブルも存在しない。北朝鮮の朝鮮労働党高級幹部だった父親らと2014年に脱北し、米国に住む李炫昇(リ・ヒョンスン)氏は「かつて平壌の羊角島ホテルにもカジノがあったが、保衛員が周囲を固め、入場者の身分証を確認していた」と語る。
それでは、北朝鮮の人々は賭け事が嫌いかといえば、まったくそんなことはない。李氏は「娯楽が少ない北朝鮮で、市民が一番熱中しているのがカードゲーム」だと語る。高齢者を中心に将棋や囲碁、花札も行われているが、圧倒的に多くの人々が楽しんでいるのがトランプを使ったゲームだ。北朝鮮では賭博は禁止でも、ゲーム自体は禁じられていない。主に男たちが市場で中国製のトランプを買い、自宅などでカードゲームに熱中している。徹夜も珍しくないという。北朝鮮の人々が圧倒的に好きなトランプは「ササキ」と呼ばれる大富豪に似たゲーム。ポーカーの一種の「テキサス・ホールデム」も人気があるという。