就学や就労などの社会的参加を避けて、長期間、家庭にとどまり続けている「引きこもり」。内閣府の調査によると、日本には現在、約146万人の引きこもり当事者がいるという。

 兵庫県丹波市で生活支援員として働く糸井博明さん(50)も、14歳から31歳まで17年間、引きこもりを経験したひとりだ。長期の引きこもりによって、「死ぬ一歩手前」まで心身が疲弊。31歳のときに精神科病院の閉鎖病棟に入院し、統合失調症と診断された。

 糸井さんは閉鎖病棟に入院したあと、どのように社会復帰を果たしたのか。話を聞いた。(全3回の3回目/1回目から読む)

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糸井博明さん ©山元茂樹/文藝春秋

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入院直後は、髪の毛を抱えながらお風呂に入っていた

――31歳のときに引きこもり生活から脱し、精神科病院の閉鎖病棟に入院したそうですが、入院直後の糸井さんはどのような状態でしたか。

糸井博明さん(以下、糸井) 当時は異常だったと思います。引きこもっていた17年間、髪を切っていなかったから、髪の毛は膝下まで伸びていて。お風呂に入るときは、髪の毛を抱えながらでした。

 ヒゲもボーボーで、身体はガリガリになっていましたね。

――閉鎖病棟に入院したあと、ご自身でその髪の毛を切ったそうですね。

糸井 閉鎖病棟には、泣き喚く人がいたり、理由もなく怒っている人がいたり……いろいろな人がいるなかで、「自分はここから出なくちゃいけない」と思ったんです。

 でも、今のままの自分じゃ閉鎖病棟から出してもらえないと思って、まずは髪の毛を切ろうと。それが第一歩というか、自分が変わるきっかけになるんじゃないかと考えました。

 それで、男性の看護師さんから工作用のハサミを借りて髪の毛を切って。あとで看護師さんに散髪用のハサミで整えてもらって。それが、閉鎖病棟に入院して1か月くらい経った頃でした。

「気分が軽くなって、すっきりした」閉鎖病棟から出るために頑張った結果

――閉鎖病棟から出るために、まずは見た目から変わろうとした。

糸井 そうです。髪の毛以外にも、三食きちんと食事をして体重も増やしました。

 開放病棟に移してもらえれば、病院内を自由に移動できたり、絵を描いたり、料理をしたりする「ソーシャルスキルトレーニング」というレクリエーションを受けられるのも知って、なおさら閉鎖病棟から出るために頑張ろうと思いました。