相続は、多くの人が人生で一度は経験する出来事だが、“はじめての相続”という人も少なくないはず。遺産をめぐり親族とトラブルになるケースもある。

 親の世話をしている親族がほかの親族との面会を妨害する「囲い込み」や「怪しげな遺書」……。実際に、元家事調停士で弁護士の加藤剛毅氏のもとには様々なケースの依頼があったという。相続トラブルを回避するには、どのような心構え・知識が必要か。加藤氏の著書『トラブル事案にまなぶ 「泥沼」相続争い 解決・予防の手引』(加藤剛毅著・中央経済社)より一部を抜粋して紹介する。

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〈CASE1〉認知症の父親の財産を、兄の嫁一家が使い込み?

(本書184頁より)

 実際に、私は囲い込みの事案の依頼を受けたことがあります。依頼者は60代の男性でした。依頼者によれば、実家に住む認知症の父親の財産が、父親と同居する亡き兄の嫁家族に使い込まれているようだとのことでした。

 父親が認知症の診断を受けていたことは判明していたので、その財産を保全するため、家庭裁判所に後見人選任の申立てを行いました。

 案の定、囲い込みをしている親族が後見人の選任に反対したため、後見人の選任に必要な医師の診断書を取得することができませんでした。これは当初から想定された事態でした。

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 依頼者の父親はその後、福祉施設に入所しましたが、私は依頼者と相談のうえ、依頼者と一緒にこの福祉施設に赴き、父親を連れ出してその足で病院に行き、家庭裁判所に提出するための「後見開始相当」との医師の診断書を取得しようと計画しました。

 そして計画決行の日、私は、依頼者に同行して父親が入所している施設で父親との面会を求めました。

 すると何と、父親はその前日の夜に、兄嫁に連れ出されて実家に帰宅してしまっていたことが判明しました。これを知った依頼者は激怒しました。

依頼者がとった“驚きの行動”

 実家に殴り込みにいこうとする依頼者を私は必死で制止し、その日は失意のうちに帰路につきました。

 あとで聞くと、実は、依頼者が味方だと思っていたお姉さんに数日前にその計画を話してしまっていたことが判明しました。どうやら、味方だと思って信頼していたそのお姉さんから相手方に計画が事前に漏れたようでした。

 こんな、スパイ映画みたいなことが起こるのだなあと私は驚きました。

 その後、私から施設側に対して父親の看護記録等を開示するよう要請しましたが、兄嫁の意を受けた施設側の協力も得られなかったため、「後見開始相当」との医師の診断書が提出できず、審理は難航しました。

なんとか後見人を選任

 ところが後日、囲い込みをしている兄嫁にも弁護士が代理人につきました。その代理人と粘り強く協議した結果、その協力を得て、医師の診断書を家裁に提出し、後見人(利害関係のない弁護士)の選任に漕ぎ着けることができました。このため、少なくとも、後見人選任後は財産の保全をすることができました。

 その後父親がお亡くなりになると、遺産分割調停をすることになりましたが、やはり父親の生前の預貯金の使い込みが問題となり、調停は大変紛糾しました。