「やっていないことをやっていないと言ってはいけないのでしょうか。架空の事実を述べたり、証拠を捏造したりして腹立たしい」。自身の初公判では、開き直ったかのように捜査批判を繰り返し…。2017年、ベトナム国籍の9歳女児を殺害した犯人男はいったいどんな人物だったのか? 事件後の家族や加害者を追った高木瑞穂氏と、YouTubeを中心に活躍するドキュメンタリー班「日影のこえ」による新刊『事件の涙 犯罪加害者・被害者遺族の声なき声を拾い集めて』(鉄人社)より一部抜粋してお届けする。(全2回の1回目/後編を読む)
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千葉小3女児殺人事件・犯人男
事件から約1年2ヶ月後の2018年6月4日、千葉地裁で初公判が開かれた。
「やっていないことをやっていないと言ってはいけないのでしょうか。架空の事実を述べたり、証拠を捏造したりして腹立たしい」
刑事裁判において被告は、無罪を主張する権利を有し黙秘権も認められている。しかし、渋谷はその司法をも馬鹿にしているとしか思えない態度で無罪を主張した。利根川で見つかったリンのランドセルに、キャンピングカー内に残された血痕やDNA。
突きつけられた物証に対しても、開き直ったかのように捜査批判を繰り返す。さらに「登校中なら親が悪い。校内なら教員が悪い。(事件は)通学途中のことなので親の責任だ」と嘯くなど、渋谷は父ハオにも矛先を向けた。仮に無実だとしても法廷で無慈悲な御託を平気で並べるこの男はいったい何者なのだろうか。
渋谷は東武野田線六実駅前にある立派なマンション一棟を所有し、入居者から振り込まれる毎月の家賃収入を生活の基盤としていた。が、現場近くで彼をよく知る人物に話を聞いてみると「親から相続しただけ」で、渋谷が築き上げた財産ではなかった。
渋谷は同マンションの一室に住み、籍は入れていないものの中国国籍の女性と暮らし、2人の子供もいた。そのうちのひとりはリンと同学年である。
「マンションの管理は厳しすぎると思うこともありましたけど、厳しくないよりはマシですよね。きっちりした性格の大家さんだと思っていました」
ある入居者が言うように、彼の評判は予想に反して悪くなかった。高校時代の同級生にも聞いて回ったが芯を食うような話は浮上しない。どころか、渋谷の人間性を把握している者は皆無だった。ならば、渋谷は逮捕までの46年間、牙を隠し、息を潜めて生きてきたとでも言うのか。
しかし取材を進めると、ひとりの女性保護者から興味深い話を聞くことができた。
「渋谷さんの子供とウチの娘が小学校の同級生だったので、娘は何度か1人で渋谷さんの家に遊びに行ったことがあるんですけど、ずっと見られていて楽しくない、怖いって言ってました」
小児性愛──。取材を通じてそう確信した私は、裁判で渋谷の口から犯行動機が語られるのを待った。しかし、渋谷は動機はおろか、犯行そのものを真っ向から否定した。