2017年、9歳のベトナム人少女が殺害された「千葉小3女児殺害事件」。日本を愛し、ベトナムとの架け橋になることを夢見た少女を殺害した身勝手な男とは…。事件後の家族や加害者を追った高木瑞穂氏と、YouTubeを中心に活躍するドキュメンタリー班「日影のこえ」による新刊『事件の涙 犯罪加害者・被害者遺族の声なき声を拾い集めて』(鉄人社)より一部抜粋してお届けする。(全2回の2回目/前編を読む)
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自宅から200メートル離れた交差点で起きた「異変」
終業式を間近に控えたリンは、来る春休みを楽しみにしていた。生まれ故郷で、大好きな祖父と祖母が住むベトナムの首都ハノイに、休暇を利用して遊びに行くことになっていたのである。ちなみに、母親グェン(同30歳)と弟(同3歳)は春休みを待たず、一足先に帰国していた。
2017年3月24日午前8時すぎ、ピンクのトレーナーにパーカー、その上にランドセルを背負ったリンは、ハオが日本で働き購入した中古戸建ての自宅を、職場に向かうハオと一緒に出る。いつもよりは少し遅くなってしまったが、8時半の始業時間には充分に間に合う。小学校までは約900メートル。子供の足でもわずか15分だ。すでに小学校に向かう子供の姿は少なく、通学路で見守りしていた保護者たちも三々五々、帰路についていた。
そのとき、リンの自宅から200メートル離れた交差点で、ある異変が起きていた。
地域ボランティアとして見守り活動をしていた女性は言う。
「その日は居なかったんですよね、いつも見守りの活動に参加していた渋谷さんが。後日、『そういえば事件の日、参加していなかったですよね?』と聞いたら『インフルエンザになってしまったので』と言ってました」
リンのことも明確に記憶していたと、女性は続ける。