いや、それ以上に私が落胆したのは、千葉の拘置所に収容されている渋谷に手紙を送るも返事は来ず、真相を直接聞く道が途絶えたことだ。マスコミとの接触は全て断っているらしい。
犯人と手紙のやりとりをした女性曰く…
獄中の渋谷から話を聞くルートを探っていると、ひとりの女性にたどり着いた。
「大きな事件が起きると、何かお困りのことはありませんか? と手紙を出すんです。
渋谷さんにも同じような内容の手紙を送りました」
犯罪者の更生を支援する活動に就く彼女によれば、数ヶ月後、忘れた頃に返信があったという。
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はじめましてこんにちは。お手紙ありがとうございます。私は眼底出血をしているため両目とも失明寸前で目が見えませんのでお手紙の内容を理解しておりません。すいません。目が見えないため、字が汚くてすいません。もし、またお手紙をいただけるのならサインペンかマジックで10円玉サイズの文字で書いてください。(一部要約)
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「嘘だと思いますよ。手紙の内容がわからないなら、なぜ私の住所は読めて、手紙が書けるのか、説明できないですよね」
それでも、渋谷の希望に従い、彼女は10円玉と言わず500円玉サイズの字で手紙を書いた。返信はなかったが、一審で無期懲役が言い渡され(2018年7月6日)、東京高裁での審理が行われていた約1年半後の2020年冬、渋谷から1枚の葉書が彼女のもとに届く。文字は乱雑で、もはや解読することすらできない。ただし、そこには精神の弛緩があり、女性の住所がはっきり記されていた。
「冷たい言い方をすると、まだやっているんだと思いましたよ。裁判でも一時期、目が見えないと供述していたそうですけど、時間が経つにつれ、そんなそぶりを見せなくなったと言いますし。何というか、場当たり的な人だなと。重罪事件を起こした被告にありがちですけれど、信頼関係を築くのは難しいと思い、それ以降、手紙は出していません」
狡猾というよりお粗末と表現すべきか。女性の見立てが間違いなかったであろうことは推測がつく。殺人犯が仮病を使うことはよくあることだ。