〈CASE3〉“放蕩息子だけには相続させたくない”は可能?
(本書170頁より)
依頼者は60代の女性でした。この方は、将来、相続人となる長男と二男の2人のお子様のうち、生前の自分に対する不行跡から、どうしても二男には遺産を相続させたくないとの強い意向をお持ちで、その意向を証明するための公正証書遺言を作成したいとのことでした。
依頼者によると、その二男の不行跡は次のとおりでした。
二男はせっかく大学に入学させてもらったにもかかわらず、1年もしないうちに両親に相談もなく勝手に退学してしまい、その後、音信不通になってしまいました。そして数年後、依頼者のご主人(二男の実の父親)が亡くなったときですら連絡もとれず、葬儀にも顔を出しませんでした。
そのような態度であったにもかかわらず、あるとき突然、数年ぶりに実家に顔を出したかと思ったら、借金をしているので助けてほしいと泣きついてきたというのです。
依頼者はあまりのことに呆れてものも言えませんでしたが、やはり自分の息子ということで、仕方なく借金を返すためのお金を二男に渡しました。すると次の日の朝には、二男はもう家を出ていなくなっており、その後また音信不通になってしまったということでした。
公正証書遺言を作成することに
相続人の資格を剥奪する制度としては、「廃除」という制度があります。
そして、廃除には、将来、被相続人となる予定の方がご存命のうちに家庭裁判所に申立てをして、相続人となる予定の推定相続人の資格をあらかじめ剥奪する「生前廃除」と、遺言に「廃除する」旨の文言を記載して遺言により指定された「遺言執行者」が遺言者の死後、遺言の規定に従って、家庭裁判所に廃除の申立てをする「遺言廃除」の二種類がありますが、実際に廃除が裁判所に認められることは少なく、非常にハードルが高いことを、私は依頼者にご説明しました。
しかし、依頼者は、裁判所に認められる可能性が低いとしても、やるだけやりたいという強いお気持ちでしたので、検討の結果、「遺言廃除」の方法を選択されました。
そこで、私は公証人とやりとりをして必要書類を取り寄せ、依頼者とともに公証役場に証人として赴いて、1.全ての遺産を長男に相続させる旨の条項、2.二男を「廃除」する旨の条項及び3.私を遺言執行者に指定する旨の条項を記載した公正証書遺言を作成しました。
また、依頼者の二男の不行跡を立証するための証拠として依頼者が作成した「陳述書」の証拠価値を高めるため、公証役場で「宣誓認証」の手続をしました。
将来、依頼者がお亡くなりになったあと、私が遺言執行者として家庭裁判所に二男の廃除の申立てをしたとしても廃除が認められるかどうかは裁判所の判断なのでわかりませんが、依頼者には、二男とは異なり自分によくしてくれた長男のためにできるだけのことはやっておきたいとの気持ちを汲んでいただけたと大変喜んでいただくことができました。