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〈CASE2〉亡くなった母親の“遺言書”が怪しすぎる?

(本書120頁より)

 依頼者は40代の男性でした。亡くなった母親が、父親の異なる依頼者の異父きょうだいに対し、全財産を遺贈する旨の「自筆証書遺言」を作成していました。

 しかし、その便箋2枚の「遺言書」が発見されたのが、母親が亡くなってから何と10年(!?)も経ったあとであったこと、「遺言書」を発見したのが財産をもらう異父きょうだい自身であったこと、「遺言書」を発見した経緯についての説明が二転三転していたこと、自分の息子の名前の漢字を間違えていたこと、筆跡が母親のものではないのではないかなど、これでもかというほど不審な点が盛りだくさんでした。

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『トラブル事案にまなぶ 「泥沼」相続争い 解決・予防の手引』(加藤剛毅著・中央経済社)

 そこで、遺言を無効にできないかとのご相談を受けたのです。そのとき既に、異父きょうだいから、遺言に基づき、土地所有権の移転登記を求める訴訟が提起されており、その対応をどうするか決めなければなりませんでした(なお、遺言が「自筆証書遺言」であったこともあり、「公正証書遺言」であれば必ず用いられる「相続させる」との文言を使っていなかったため、相続人による単独申請による移転登記ができない事案でした)。

遺言を無効にするのはハードルが高い!?

 まず私は、曲りなりにもご本人の署名・押印がある以上、遺言を無効にするのは相当ハードルが高いことをご説明しました。

 そして、依頼者と協議した結果、裁判所が判断するのであれば仕方がないとのことで、裁判では遺言の無効を主張しつつ、仮に遺言の無効を認めてもらうのが難しいようであれば、予備的な主張として、遺言が有効であることを前提に、遺言により侵害されている遺留分の請求権を行使して一定の金銭の支払いを求めるという方針で訴訟を進めることになりました。

 その後、私が正式に受任し、依頼者の代理人として訴訟を進め、前述の多くの不審点を指摘しつつ遺言が無効であることの主張を粘り強く展開しましたが、裁判官の心証としてはやはり当初の想定どおり、証拠上なかなか遺言が無効であるとまでは断定できないというもののようでした。

 そこで、当方としては、遺言が有効であることを前提に、遺言により侵害された遺留分の請求権を行使したうえで、相手方の代理人と期日間で交渉を重ねました。その結果、当方が遺産である不動産の移転登記手続に応じる代わりに、一定の金銭を支払ってもらうことで依頼者の納得も得て合意が成立し、和解成立に至りました。

 この事案では、遺言の有効性について怪しいと思わせる不自然・不可解な点が数多く存在しましたが、実際に遺言を無効にすることのハードルが相当高いことを改めて再確認することになりました。