やる気や生産性に直結する「メンターシップ」の重要性
職場でのメンターシップは、労働者の成長やキャリア形成を支える重要な要素です。メンターシップとは、経験豊富な先輩や助言者(メンター)が、知識やスキルを伝えたり、助言やサポートを提供することで、相談者(メンティー)が仕事の中で直面する課題を乗り越え、自信を持って成長できる環境を作り出します。
しかし、このメンターシップが欠如している職場では、特に若手や新入社員が孤立しやすく、ストレスを抱えたり、キャリアへの不安を感じたりすることで、やる気や生産性が著しく低下する事態が生じます。
特に終身雇用制の考え方が長く続いていた日本企業では、新入社員から長年組織に所属するのが当たり前だったため、所属する人の個性や人間関係の把握、OJTによる現場での業務の習得など、明示的に指示や教育を行わずに「見て習え」というスタイルで社員を育てるという考え方が強く残っています。また、日本社会では「空気を読む」という価値観も強いため、「業務で必要な考え方や悩みの解決を明示的に提示する仕組みが必要」という発想がある組織は多くありません。
さらに、仕事の相談をできる相手が上司のみであれば、相手は自分自身の業務を評価する立場であるため「弱み」や「悩み」を率直に開示することが難しかったり、性格的な相性が良くない場合は相談しにくかったりする問題が生じます。上司に適切な経験やスキルがない場合は、相談する相手がいないことになり、課題や悩みを抱え続けることになります。
メンターシップの欠如が問題となる理由の一つは、「孤立感の増大」です。職場において、相談できる人や助けを求める相手がいない場合、担当者は自分が抱える問題を一人で解決せざるを得ません。
このような状況では、特に経験が浅い場合に「自分は適応できない」「周囲の期待に応えられない」と感じることが多く、心理的なプレッシャーが増大します。こうした孤立感は、職場でのストレスや不満を増幅させ、最悪の場合、早期離職や精神的な健康問題に発展することがあります。
「知識やスキルがない」人材を量産してしまう
また、「知識やスキルの習得機会が失われる」ことも、メンターシップの欠如がもたらす大きな問題です。特に、専門性の高い仕事や業界特有の知識が必要な職場では、経験豊富なメンターがいないと、担当者は独学で学ばざるを得ない状況に陥ります。独学では効率的に学べないだけでなく、誤った方法や解釈が実施されるリスクも高まります。これにより、業務の進行や成果物の品質が低下し、担当者自身が「自分は十分に成長できていない」という無力感を感じるようになります。
さらに、「フィードバックの欠如」もメンターシップがない環境で起こりやすい課題です。メンターがいる職場では、担当者が業務を進める中で適切なフィードバックを受け、自分の強みや改善点を把握することができます。しかし、メンターがいない場合、担当者は自分が物事を達成できているのかわからず、不安や迷いを感じることが多くなります。
このような状態が続くと、担当者の自己効力感が低下し、仕事に対する積極性やモチベーションが失われていきます。
また、「キャリア形成の道筋が見えなくなる」こともメンターシップが欠如している職場で起きやすい問題です。メンターは、相談者が自分のキャリア目標を設定し、それに向けてどのようにスキルを磨いていけば良いのかを助言する役割を果たします。しかし、このサポートがない場合、担当者は自分の努力の方向性が正しいのかわからず、不安を抱えることになります。このような不安が続くと、担当者は職場での成長や将来の可能性を見出せなくなり、転職を選択するケースも増加します。
今回一部内容を抜粋した書籍『人が壊れるマネジメント プロジェクトを始める前に知っておきたいアンチパターン 50』では、紹介したような「ヤバすぎるマネジメント」だけでなく「じゃあ、どうすればいいの?」という疑問に答える「正しいマネジメントの方法」についても解説しています。
