人手不足のいま、マネジメントの「NG」を知ることは非常に重要である。人材に逃げられたり、あるいは壊してしまったりしないためにどうすれば良いのだろうか。『人が壊れるマネジメント プロジェクトを始める前に知っておきたいアンチパターン 50』(橋本将功著、ソシム)から一部抜粋し「反面教師」として、人を壊してしまう「やってはいけないマネジメント」を紹介する。(全2回の2回目/前回を読む

仕事はキツくないのに、なぜか人が壊れていく会社の特徴とは? ©graphica/イメージマート

「仕事は楽」だが人材が逃げ出す企業の特徴とは

 昨今、職場環境についての表現として聞かれるようになった言葉に、「ゆるブラック企業」というものがあります。この言葉は、今までよく使われていた「ブラック企業」という言葉に若干の異なるニュアンスを追加したもので、「仕事は楽だが、成長できず収入も上がらない企業」を指します。

 仕事が楽なのはいいことじゃないか、と思う方もいるかもしれませんが、パワハラ・長時間労働・低賃金などのネガティブなイメージを持つ組織を示す「ブラック企業」から派生していることからわかる通り、「ゆるブラック企業」は特に若い世代から避けるべき企業として認識されるようになっています。

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 エン・ジャパン株式会社による「ブラック企業・ゆるブラック企業」についての調査では、「ゆるブラック企業から転職すること」を肯定する回答がすべての世代の合計で76%にも上り、特に若い世代で高い傾向にあるとされています。

若者が転職を行いがちなのが「ゆるブラック企業」だ

 このように、ゆるブラック企業は多くの労働者から敬遠されていますが、そのことに経営者や管理職は気づきづらいという特徴があります。

 その理由は、人手不足で競争の激しい現代において、労働者に負担をかけない「楽な仕事」を提供するには相応の経営努力が必要であるうえに、ワーク・ライフ・バランス(仕事とプライベートの両立を目指す考え方)やフレックスタイム制、リモートワークなどを取り入れた働き方改革に対応したことで、やるべきことは終わったと思っているからです。

 経営者や管理職が積極的な取り組みを行って働き方改革を実施し、「うちは従業員に大きな負担をかけない、いい会社だ」と思っていても、就職・転職希望者からは「ゆるブラック企業」とみなされて敬遠されたり、所属する社員はモチベーションの低下によってメンタルの安定が失われ、その結果として優秀な人が居着かなくなったりしてしまうのです。

 働く人がキャリア成長の機会が欠如していると感じる主な原因の一つが、「学習や挑戦の場が提供されないこと」です。「ゆるブラック」な環境では、一見すると業務量が適切でハードな印象はないものの、社員に新しいスキルを習得する機会が与えられず、日々のルーチン業務をこなすだけの状態に陥りやすくなります。このような環境では、社員は「自分がこの組織で成長している実感がない」と感じ、徐々にやりがいを 失っていきます。

成長の実感を感じられず、徐々に人を壊していくのが「ゆるブラック企業」だ(イラスト:山形幸、以下同)

 また、「昇進や役割の変化がほとんどないこと」も問題です。従業員が長期間同じ役割や業務を続けるだけの環境では、キャリアの停滞感が募ります。「ゆるブラック」な職場では、社員に大きな負担を課すことはないものの、同時に昇進や新しい挑戦を提供する体制も整っておらず、「現状維持」が黙認されてしまう傾向があります。業務上必要な環境の整備なども現状維持のために却下されるようになり、新しいことは何もできない環境が出来上がります。

 こうした閉塞的な環境では、社員の心理的な健康にも悪影響を与えます。「自分はこの組織でどのように成長できるのかわからない」という不安がストレスを引き起こし、燃え尽き症候群やモチベーション低下を招く可能性があります。また、こうした状況が長引くと、優秀な人材が成長の機会を求めて他社に移ることで、組織全体の競争力が低下します。