経済分野は元気をなくして久しいし、科学技術も予算が削られ苦しいようだ。サッカーはといえば、W杯での優勝なんて夢のまた夢。日本がいま、世界トップレベルで闘えるものって何かあるんだろうか。

 ひとつだけある。建築だ。

世界の建築シーンをリードしてきたスター建築家たちの個性

 戦後の日本建築は丹下健三にはじまり、谷口吉生、磯崎新や安藤忠雄、妹島和世らにいたるまで、常に高い評価を受けてきた。

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 世界の建築シーンを力強くリードしてこられたのは、スター建築家たちの個性に負うところがまずは大きい。くわえて独特な、あまりにオリジナルな道を歩んできた日本建築の伝統が、世界的に珍重される機運も手伝った。

 古今の豊富な事例から、日本建築の歴史を丸ごと見ていこうとする展覧会が開かれている。本欄で取り上げた「関東の人気美術館ランキング」にて1位に輝いた森美術館での「建築の日本展:その遺伝子のもたらすもの」。

 

9つのセクションで日本建築を丸裸に

 建築展の場合、実物を展示することはまず叶わない。そこで模型やパネル、設計図などさまざまなモノや資料を駆使して、建築がまとう特長、雰囲気、思想を浮き彫りにしていくこととなる。今展では模型と現物写真を中心に、あの手この手で各建築の全体像を描き出そうとしている。その足掻きっぷりが徹底していて理解が進むし、見応えありだ。

丹下健三《香川県庁舎》の模型

 広い会場では、縄文時代の住居から最新の建築計画まで、数千年の時を超えて総計100ものプロジェクトが紹介されている。時代順にずらりと並んでいても迫力はあったろうが、実際はテーマ別に9つのセクションに分かれ展示が構成されている。

《伊勢神宮正殿》の模型

 このセクションの分け方が、なかなか秀逸だ。各タイトルを頭に入れながら建築例を追っていくと、日本建築の特質や実現しようとしてきたものが、すっと頭に入ってくる。

 ざっと順に見てみれば、まず「可能性としての木造」。森林で覆われた日本列島では、古代から木材を用いた技術が磨かれてきた。間近で見られる複雑な木組みの実例には感嘆しきりだ。