父親は無職、酒飲み、DVの三拍子そろったダメ人間…貧しい生まれながらも、成人してからはその才覚によって、大きな財を築いた横井英樹氏。「乗っ取り屋」と呼ばれ、ときには大きな批判も集めた氏はどんな人生を歩んだのか？ そして彼を窮地に追いやったある事件とは？ 報道カメラマンとして活躍する橋本昇氏の新刊『追想の現場』（鉄人社／高木瑞穂編）より一部抜粋してお届けする。（全2回の1回目／後編を読む）
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誰も信用しない「守銭奴人生」
貧乏人が成功した。平たく言えば“成り上がり”。その裏では多くの人の怨み、軋轢、妬みを買うものだ。
横井英樹氏。昭和・平成を駆け抜けた乗っ取り屋である。横井氏は1913年愛知県に生まれる。父親は無職、酒飲み、DVの三拍子そろったダメ人間だった。母親は手内職で横井少年を育て上げた。少年は小学校から働き始め、頭が良くガキ大将でもあった。
彼は畑を借り野菜を作って僅かな生活資金を得た。そして高等小学校を中途退学後の15歳のとき、ボロ浴衣を着て上京。メリヤス（繊維）問屋へ丁稚奉公へ入った。奉公人としての詳細は知られてはいないが、まずは所作なく勤めたのであろう。
1930年、独立して横井商店を設立した。そして1942年、太平洋戦争で商機を得る。軍需工場に出入りをし、高級軍人にあの手この手で上手く取り入り、軍の下請け管理会社である横井産業を設立した。
横井産業は兵隊の防暑服の製造で儲けた。戦時成金というやつだ。
戦争が終わり横井氏は思った。戦後は繊維よりも不動産だ。そして焼け跡のただみたいな土地を買い漁り、資産を増やした。次に横井氏はこの財を使って乗っ取りを企てる。
1950年、目を付けたのは東京日本橋の老舗デパート白木屋だ。白木屋株を買い漁り、当時の白木屋社長を「何処の馬の骨かわからんヤツに伝統あるこの店が乗っ取られてたまるか！」と嘆かせたという。
結局、この白木屋「乗っ取り騒動」は政財界を巻き込んですったもんだし、数年後に横井氏は株を手放す形で乗っ取りに失敗する。
1964年、次に箱根の高級ホテル『富士屋』の乗っ取りを計画し、もう一人の乗っ取り屋である国際興業社主・小佐野賢治氏と激しく対立した。結局、右翼の大物・児玉誉士夫氏の仲介で手打ちしたが、そのとき横井氏が手放した株の代金数億円を、児玉氏や小佐野氏の前で一枚一枚手で数え上げたというのは有名な逸話だ。
その後横井氏は1979年、東京・赤坂の『ホテルニュージャパン』を買収した。ホテルニュージャパンは都内の一等地赤坂にあり、知名度は高かった。しかし、横井氏が社長になったことで後に大変な事件が起こることになる。
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