勃起から射精までの過程は、自律神経の副交感神経から交感神経への切り替わりが俊敏に起こる反射によって行なわれるため、全身にも負荷がかかる行為です。そのため、射精の際に心筋梗塞などの虚血性心疾患、くも膜下出血や脳内出血などによって死亡することがあります。経験上、腹上死の多くは射精後に起きていることが多いことからも、自律神経の過剰な反射が大きく関与していると考えています。
また、これは性交渉だけでなく自慰行為でも発生します。アダルトビデオを流したまま下半身だけ裸の状態で死亡しているケースを解剖することも、多々あります。
「えっと……旦那さんは性行為中に亡くなりました」
ちなみに、高齢者が性交渉中に死亡した際、私たち法医学者にとって最も厄介なのは、ご家族への説明です。
パートナー同士での性交渉中の死亡であれば近親者の方々の悲しみに配慮するのみなのですが、内密のお相手との性交渉中に死亡した場合は、ご家族への説明に苦慮します。保険金や遺産相続が絡んだ裁判に巻きこまれることもありました。
歳を重ねると、勃起力は低下します。それでも性的活力の高い人は、バイアグラに代表される勃起不全治療薬を服用して性交渉を行ないます。
高齢者がバイアグラを服用して、性交渉中に死亡するケースは増えています。
このような場合では、もともと高血圧や心疾患を有していて、降圧薬を服用している人が多く、バイアグラを併用することで急激に血圧が低下し、急性脳梗塞などで死亡していることが多いようです。
バイアグラによる腹上死は、用法・用量を守って服用することで防ぐことが可能です。お医者さんや薬剤師さんの指導には、必ず従うようにしましょう。
・過剰な性的興奮を伴う性交渉は避ける。
・異常を感じたらすぐに連絡が取れる環境で性交渉を行なう。
・勃起不全治療薬と降圧薬を併用しない。
