だからガンダムを最初に観た頃、「なぜ試作型のガンダムが、量産型のジムより性能が上なんだ?」という疑問がありました。現実の兵器開発では試作型に生じがちな初期トラブルをつぶしていくのに苦労するものなんですよ。実用にこぎつけてから性能を向上させるのが兵器開発・製造の現実でしょう。

 小泉 零戦だって、試作段階ではかなり落っこちていますからね。

 高橋 デチューン(あえて性能を落とす処理)して量産する連邦軍と、改良を重ねて性能を上げていくジオン。その違いだということで、私は理解していますけどね(笑)。

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日本アニメは補給軽視で決戦主義

 太田 そもそも、そういう意味でアニメでは開発者やメカニックなどの“戦争の裏方”が描かれることが少ないですよね。

 小泉 たしかに。整備士が主人公のアニメとか、観てみたいですね。整備士がいなければ、メカは動かないわけですから。

 高橋 パトレイバーでいえば、整備班主任のシゲさんが主役になるわけだ。ガンダムシリーズだと、メカニックのアストナージですか。

 小泉 宇宙戦艦ヤマトに、整備士は出てくるんでしたっけ?

 太田 真田技師長はメインキャラですが、整備士は出てきませんね。

太田啓之氏 Ⓒ文藝春秋

 高橋 ファーストガンダムでは、主人公アムロの憧れの女性、マチルダ中尉は補給士官ですね。ホワイトベースが攻撃を受けてエンジンの圧力が下がってしまったとき、整備士官とマチルダの、「原因はわかりました、3分待ってください」「2分ですませてください」というやり取りは印象的でした。補給部隊があれほど爪痕を残すというのは珍しい。

 太田 やはり日本のアニメは、日本陸軍のエピソードの影響を受けているのでしょう。補給軽視で、決戦主義なんです。

三氏らが共著者の新刊。表紙には1990年代の名作とされる押井守監督の『機動警察パトレイバー2 the Movie』が採用された Ⓒ文藝春秋

 小泉 本当は、巨砲一発では戦争は終わりませんからね。ウクライナ戦争の解説でも「ゲームチェンジャーは何ですか」という質問を何度も受けたんです。しかし現実には“超兵器”など存在しません。

※本記事の全文(約7000字)は、月刊文藝春秋のウェブメディア「文藝春秋PLUS」と「文藝春秋」2025年5月号に掲載されています(小泉悠×高橋杉雄×太田啓之「ガンダムが描いた戦争の「虚と実」」)。

■全文では下記の内容をお読みいただけます。
・平和ボケへの苛立ち
・「避難とは生活を捨てさせること」
・ジオンは日本?
・兵器のロマン性が役立つことも

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