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通勤ラッシュに赤ちゃん登場「日本は育児に冷たい」の妥当性

都市生活のストレスって、もう少しうまく捌けないものなんだろうか

2018/06/21

genre : ニュース, 社会

他人の事情を省みる余地がない通勤

 別に赤ちゃんや妊婦を排除しているつもりはないけれど、みんな自分のことに精いっぱいで余裕がなく、他のことや他人の事情を省みる余地がない。出口がないわけですよ。通勤ラッシュの時間帯を避けて子供は移動しましょう、みたいなことを言い続けるしかない。しかし、通勤ラッシュより少し早めの時間帯に電車に乗ると、今度は通学中の小学生が重そうなランドセル背負ってヨタヨタ電車やバスに乗ってるのです。まるで小学生のうちから未来の企業戦士になるべく通勤ラッシュに耐える訓練をしているかのようだ。言われてみれば、私も小学校のころは満員の乗合バスに揺られて通学していたのを思い出しますが、とにかく辛み、しんどみしか記憶にないのです。満員バスの中で試験前に用意していた単語帳をうっかり落として、気づかないサラリーマンが次々と踏みつけてくちゃくちゃになり、半泣きになって学校に行った思い出。満員電車で通学していて吐き気を催し、ホームで降りて嘔吐して遅刻した経験が、脳裏に蘇ります。皆さんも満員電車の中で急な腹痛に見舞われてにっちもさっちもいかなくなった経験が、人生で一度や二度はあるでしょう。

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 人間は社会的な生き物なので、活動時間帯が被るし、仕事であるからには行かなければならない、集団生活はどうであれ折り合って行かなければならないのは、理屈の上では分かるんです。どうにもならないことが、現実にはあるのだということも。ただ、技術が進歩して、昔とは比べ物にならないぐらい便利な世の中になったはずが、仕方なく電車に乗ってきたであろう赤ちゃんとお母さんに対してすら舌打ちしてしまう状況からなかなか改善しないのは何故なんだろうと思うわけです。余裕がなくて、人の心を失いかねないような都市生活のストレスって、もう少しうまく捌けないものなんだろうか、それでも育児しなければならない環境ならば都市部の子育て環境は良くなるはずもないのだから、若い夫婦が共働きでも頑張ってもう一人産もうってならないよな、少子化も進まざるを得ないよなって。

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「お前も辛い思いをしろ」と言いたい人もいるのかもしれないけど

 いまでこそ、普通に男性も女性も社会に進出して当たり前ってなっているけど、実は出産と育児に携わる女性に「働きに出ろよ」っていう負担のほうが、実際には大きいんじゃないでしょうかね。専業主婦が良いか悪いかとか、働くキャリアが出産・育児で途絶えるのがどうという議論だけでなく、待機児童解消のために何十億かけて、園児一人当たり50万円以上の公共コストを払うぐらいならば、子育てしている家庭に50万円分のクーポンでも出してあげて、働きたければどうぞ、自宅で育児したければどうぞっていう選択が各家庭に与えられたほうがフェアだと思うんですけどね。子供が生まれたので育児に専念して働きたくない男性も女性もいるだろうし、本当に子供が大事だ、出生率を引き上げたい、子供に優しい社会にしようという話なら、働くより子供と暮らす選択をする家庭という選択も用意してあげるべきなんじゃないかってのは感じるわけです。

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 働く女性が子供の預け先に困って一緒に満員電車に乗って乗客に舌打ちされてしまう状況そのものがディストピアだし、私が子供のころだった昭和のまんま、平成が終わろうという時期にもまだ、みんな満員電車乗ってるわけですよ。「みんな辛い思いをしてきたのだから、お前も辛い思いをしろ」と言いたい人もいるのかもしれないけど、そこで苦労してもなあ、と。

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