警察官=聖人君子の考えに縛られずに

 そんな百目鬼のキャラクターが遺憾なく発揮されるのが、本書の読みどころである「警察官が犯罪に手を染める」設定だ。

「これまで多くの警察官の方々に取材を行いました。市民の生活を守る特別な存在であることは間違いないですが、交流を重ねるうちに我々と何ら変わらない普通の人間でもあると気付いたのです。それ故に、つい悪事に手を染めたり、保身に走ってしまう人もいる。警察官=聖人君子といった考えに縛られないのは、そうした取材経験のためだと思います」

 また、「カミツキガメ」や「逆さ眼鏡」「海鮮丼」など、やや変わった独特の題材が各短編で描かれるのも本書の特徴だ。

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「カミツキガメもそうですが、特に生き物はミステリの小道具として、とても魅力的ですね。例えば、タコは人間の顔を区別することができるという話を聞くと、そのネタでどうにか一編書けないか、とついつい考えてしまいます。逆にハイテクすぎるガジェットは、種を明かされて興醒めすることが多いため、取り扱いが非常に難しいですね」

 

 独特の視点と巧みな構成で描かれる警察官たちの姿は、新鮮な驚きをもたらしてくれる。早くもシリーズ化が決定、続編を構想中だ。

「百目鬼巴を通して、警察官という仕事の実感が読者に伝わるように、たくさんのエピソードと、新たなトリックを盛り込んでいきたいです」

長岡弘樹(ながおか・ひろき)
1969年山形県生まれ。2003年「真夏の車輪」で小説推理新人賞を受賞、08年「傍聞き」で日本推理作家協会賞(短編部門)を受賞する。

交番相談員 百目鬼巴

長岡 弘樹

文藝春秋

2025年4月9日 発売

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